第29話 鉄のツルハシ
セタントはあっという間に眠ってしまった。
やはり疲れていたのだろう。今日の昼間は重労働をこなしたし、精神的にも疲労したハズ。
毛布で丸くなってスヤスヤと眠る姿は小動物の様で可愛らしい。ほっぺたを突いてイタズラしたくなっちゃうな。
ガマンガマン。疲れ切ってるんだゆっくり寝かせてやろう。
俺は妖精少女に良いぞと語り掛け、一瞬で地下の坑道に現れる。
妖精のマントから今日買ったツルハシを取り出す。
「今日はツルハシを予備も買って来たからな。
作業を進めるぞ」
「やったんだわさー
…………その黒い道具。
少しイヤな雰囲気なのよ」
俺を待っていた妖精少女は何故か、少し引いている。
「どうした?」
「それ、もしかして鉄で出来てないかしらだわよ。
鉄は妖精にとって大のニガテなんだわさ」
俺は買って来た鉄のツルハシを眺める。
木製の柄、金属部分は黒く塗られている。他の青銅製の物より頑丈そうなのに重さはそこまででは無い。
鉄の表面を黒染め加工してある。
俺は無理ヤリ記憶を引っ張り出す。鉄をアルカリ溶液に浸すと四酸化三鉄が生じ表面に被膜が出来る……で合ってたかな。
実のところこれだってサビでは在るんだけど、表面を薄く覆って中の部分までサビが広がらないと言う便利な特徴が在る。表面は黒光りして見た目も悪くない。簡単でコストも安い表面処理だったりする。
「フツーの鉄だと思うけど……
黒いけど、呪いのアイテムだったりはしないと思うぞ」
「だから、そのフツーの鉄がニガテなんだわさ!」
「……なんで?」
「知るか! なのよ!」
あたしのハナシ聞いて無かったんだわさー、とお怒りになりながらもちみっちゃい少女が説明してくれた。
妖精はほとんどの物質をすり抜けて行ける。人間の造った物も一緒、人の家や俺達の住む宿舎の中に瞬間移動で現れる事が出来るのだ。だけど、何故だか鉄だけは通る事が出来ない。妖精にとってのジャマでニガテな物質。
それで妖精女王は俺の掘っている地下に閉じ込められている。普通の場所であれば妖精女王は閉じ込める事など不可能。ちみっちゃい妖精少女が出来る事なのである。女王を名乗る妖精に出来ない筈も無い。ところがこの辺の地面は鉄を多く含み妖精が逃げ出す事が出来ない
なので、妖精少女は人間の俺に頼んで鉄の多い地面を掘り進め、妖精女王を助けようとしているのだ。
「なるほど。
そーゆコトだったのか」
「ちゃんと最初に言ったのよ。
アンタ自分が何をしてると思ってたんだわさ」
ちみっちゃい少女が俺をジト目で見る。
うーん。そう言えば聞かされた気もするんだけどさ。いきなりそんな事わーっと言われても良く分かんないじゃんか。
何してるのかは良く理解出来てなかったけど、お仕事するの楽しいもん。更にちみっちゃい少女の応援付きと来れば、理由なんてどーでも良くなっちゃうものなのさー。
「アンタ、ほんとーにヘンなヤツなのよ」
妖精少女がますますジト目になった気もするけれど、気にしないし、気にしてる場合でも無い。いつもの気配が湧いているのである。
石の巨人、五月蝿いコバエどもである。
俺はヘルメットをかぶり直し、鉄のツルハシを握りしめる。まー石の巨人なら青銅のツルハシでも楽勝なんだけどさ。せっかく鉄のツルハシ買ったんだし、やっぱ試してみたいじゃん。
重いかと思ったけど、黒光りするツルハシは以前より少し軽い気がする。
ん-、そうだった。確か鉄の方が銅より比重が軽いんだ。
比重ってのは水の重さを基準としている。水が1で、1より大きい数字なら水より重いって訳だ。多分鉄が8で銅が9だったと思う。正確には鉄が7.8、銅が8.9……だったかな。昔は頭に叩き込んだんだけど、今じゃまったく役に立たない知識、覚えてられないよな。アルミだと2.7しか無い、軽くて便利な金属の代表だね。
そんな訳で今までのツルハシよりおよそ9分の8の重さになった鉄のツルハシを俺は振るう。
速度上昇!
筋力強化!
基本強化はしておいて、うりゃっとジャンプ。俺は石の巨人の頭の上からツルハシを叩きつける。
ズガンッ!
良い手応えに良い音。みごとにツルハシの先端は石の巨人の図体に潜り込む。これならば、地獄の炎や瞬間冷凍無しでもイケそうじゃん。
ガンガン攻め込む俺。石の巨人は頭がツブレると胴体も崩れてる。それでも動こうと藻掻くが、俺が心臓部から魔法石を抜き取るとガラクタと化して動かなくなった。
だいたい中心部、腹の辺りに魔法石が在るんだよな。
これは黄魔石だな。大きさは中くらいってトコロ。それは俺が隠し持ってる魔法石の中でのハナシ。
もしも鉱山に居る連中や監視官に見せたなら騒ぎになるであろうレベルのシロモノなのだ。そんな魔法石が既に妖精のマントの中には溢れかえっている。
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