第10話 魔法医師
「貴方もクーを信じているなら、俺の事も少しだけでいい。
信用してくれ」
「ちっ 口が上手いな。
分かったよ。
俺が、てめぇサギだったら殺すぞ、って殺気を放ってるのに微動だにしやがらねぇ。
どうやら、本物か…………
それとも胆のすわった大悪党か、どちらかだな」
コンラさんは俺の言葉で前をふさぐのを止めた。
殺気……放ってたの? 目つきは少し怖かったけどさ。それでもクーが怒った時の全身から放たれる鬼気。あれに比べれば、子供が怒ってるようなモノ。それでビビッていたらクー・クラインとは付き合っていられない。
「ありがとう」
俺は言って木の扉を押し開ける。
薄暗くした部屋。窓はあるが、カーテンが閉められ、日の光は薄くしか差し込まない。
病院特有のフンイキ。重く湿ったような体にまとわりつく空気。部屋自体は掃除され、清潔なのだが、さわやかさと切り離された異空間。
病室に入っていくのって、少し緊張するよね。中に居るのが重病人と分かっていれば、なおさら。
俺はためらいを表に出さないように進む。
部屋の中央にベッドがあって。
そこにクー・クラインが寝ていた。
金髪のまっすぐな髪が額にかかる。目をとしているのでまつ毛の長さが目立つ。整った顔立ち。
違う。
クー。クラインは俺の後ろから部屋に入って来る。クー・クラインの訳は無かった。
「…………セタント」
彼女がつぶやく。
そうだ。頭を働かせればすぐ分かる。あまりにもクーに似た顔がベッドに横になっていたので、一瞬脳みそがトンデしまったが。
横たわった人間こそがセタント・クライン。クーの弟。よく似ていると言われた姉弟。
そう思って観察すれば、少し顔立ちも違う。髪の毛は男にしては長い。寝ているので切りそびれているのか。一度男を装うため、短くして伸びてきたクーと同じくらいの長さ。
だけど。
面差しが弱い。目を閉じているのでハッキリとはしないのだが、クーから感じられる意志の強さ、凛々しい雰囲気と言う物に欠けている。むしろセタントの方が女性の様な柔らかさ、弱弱しさにあふれる。
それは本人の特性なのか、病気のせいなのか。通常のセタントを知らない俺には判断が付かない。
頬がこけて、顔色が悪く感じられるのは、部屋が暗いせいだろうか。
「前に見た時より、瘦せてしまったみたい……」
クーがつぶやく。
「ああ、一日に数回しか意識を取り戻していないんだってよ。
その時にメシを食うんじゃ栄養が足りねぇ。
おふくろから聞いた話じゃ、寝ていても無理やり口を開けて、重湯を飲ましているんだ。
でも…………やっぱ足りねぇよな」
「そんな……状態まで……
わたしが最後に会った時は……具合は悪そうだったけど……もっと普通だった」
「俺が出る前もそうだ。
弱っちゃいたが、意識を半日も取り戻さない、なんてことは無かった」
クーの目も弱弱しくなっている。
あまり仲は良くなかったと聞いてはいるが、それでもたった一人の弟。衰弱した姿を見るのはショックなのだろう。
「イズモ先生、イズモ先生」
俺に話しかけたのはミューギンちゃん。彼女は小声でひそひそと話しだす。
「あたしも一応は魔法医師なので…………
難しいかもしれません。
魔法医師はこう習います。
『病気を治すのは患者だ。
魔法医師はその手助けをするだけ』
あたしたちは魔素を魔力にして患者の体に送り込む事が出来ますけど、それは患者さんに力を与えているんです。
小さい傷ならだれでも自然に治癒する力があって、時間さえかければ治るでしょう。その人間の治癒能力に力を貸すだけなんです。
だから、治ろうとする力の無い人間には効果がありません。
お年寄りだったりすると、もう自分を治そうとする気力が無いんです。
だから、魔法医師がいくら魔力を送ってもムダ、ムリ、意味が無いんでーす」
病気を治すのは患者自身、医者はそれに力を貸すだけ。
そんな言葉は俺も聞いた事がある。医療系のドラマか何かだろうか。
相変わらず、ミューギンちゃんは説明が上手い。パっと俺の頭に入ってくる。その医者の役割はこの世界でも同じらしい。
…………だけど。
「しかし、彼はまだ若い。
今は衰弱して意識がハッキリしていないかもしれないが……
意識を取り戻せば、当然治りたいと願うだろう」
セタント君は若い。年齢はクーの一つ下だと聞いた。ならば17歳。ピッチピチのセブンティーンなのである。
「…………いいえ。
セタントさんの事をよく知らないですから、なんとも言えない部分もありますけど…………
あの患者さんからは生きようとする気力が感じられません。
王族の一員としての人気取りサービスみたいなものがあるんです。
病院を回って、戦場でケガした人とかを魔法医師の力で癒すんでーす。
お仕事ですし、感謝もされるから気持ちのいいお仕事なんですけど…………
でも…………
一線を越えてしまった人、もう魔力を送っても回復しない人も混じっていて。
そんな人は見れば分かるんです。
あ、もうこの人ダメだな……って。
セタントさんも同じです。
あたしには…………彼はもう回復しないように思えます…………」
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