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男は異世界に生まれ変わる。だがそこも地獄の様と呼ばれ強制労働させられる鉱山だった。だけど俺ってば仕事中毒だから平気、むしろ生き甲斐が出来て楽しーや。  作者: くろねこ教授
第4章 暴走《スタンピード》

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第85話 鉄の鎧

「うおおおおっ」

「この娘、本当にすばしっこい」


 男どもが両手を広げて、クー・クラインを捕えようと走ってくる。

 そんなものに大人しく捕まる義理は無い。

 

 素早く横に避ける。するとロングソードの切っ先が突っ込んでくる。

 クロトーの長剣。

 彼女の剣は鋭い。コナータの王女だと言うが、ハンパでなく鍛えている。呪術師(ドルイド)の強化の力も使っているだろうが、それだけでは無い。本人が剣を修練している事が良く分かる切っ先。

 ブレることなく、こちらの体を狙う。

 

 雑多な兵士達に傷つけられはしないが。

 彼女の攻撃だけは。

  

 クーはすでに何度か剣先を受けていた。大きなケガをしていないのは金属の鎧を身に纏っているおかげである。

 薄く体の線に合わせて湾曲した優美な鎧。


 こんな鎧があっと言う間に作られるなんて信じられなかった。

 魔法技士(クラフツ)のつくる金属装備は製作に数日はかかると聞いている。それも無骨な何の飾りも無い厚くて重たい鎧。

 貴族が金に飽かして魔法技士(クラフツ)に依頼して、初めて意匠の施された魔法武具が出来上がる。

 体格にピッタリ合わせた鎧を着ることが出来るのは金のある貴族の特権。

 その貴族の下で働くお気に入りの兵士隊長に無骨な金属鎧が与えられる。さらに下っ端に金属装備が与えられる事は無い。せいぜい兜だけか、盾だけである。

 さらに上級の貴族や、王族になってくると、鎧や兜に意匠を凝らす。家のシンボルマークを入れたり、相手を驚かすための怖ろし気な飾り、あるいは自らの権力を誇示する優美な飾り。

 そんな物になってくると数日では出来上がらない。数週間、あるいは半年かけて製作される。


 ところが。

 あの謎の妖精男は…………

 一日で作ったと言う鎧をクー・クラインに差し出した。

 丸一日もかかっちゃったよ、と訳の分からない事を言いながら。鎧は呆れるほど美しい。こんなに薄くて優美な鉄の鎧をクーは見たことが無い。芸術品みたいだ。

「サイズ合うの?

 良かったー、テキトーに作ったからさ。

 サイズ合わせで何度か作るつもりだったんだ」

 だから、高機能大型魔法炉は一度動かすだけでも魔石を食らうのだ。そんなの何回も試せやしないのだ。ところが非常識な魔法技師(クラフツ)もどきは小型魔法炉で器用に武具をいくらでも作ってみせるのだ。

 しかも、彼が言う事にはこの鎧は錆びないと言う。

 濡れなければ錆びない鉄であるが、鎧に使うのだ。人間は当然汗をかく。鎧の下に着物を着るとは言っても、金属の鎧を身に付ければ、汗だくになる。布などあっと言う間にビショビショ。鎧まで染み通る。

 それを放っておくと一日で錆が発生する。こすっても叩いても取れない。削り取るしかない。処理が遅れると錆はあっという間に広がって、装備全体をダメにしてしまう。

 そのため油を塗ったりする。貴族なんかだと専門の手入れの人間まで雇う。部下の兵士にそんな金はもちろん無い。自分たちで手入れするがどう頑張っても雨が降ったりすれば、濡れるのは避けられない。だから鉄の鎧はとてつもなく頑丈で魔法の様に便利な品の様で不便なのである。

 だと言うのに、である。

「ステンレスって言うんだ。

 まったく錆びない訳じゃないよ。

 でも鉄に比べれば……

 正確な成分分析してないから、何とも言えないけど、数年は大丈夫じゃないかな」

 だから。

 イズモは非常識!

 だと言うのである。 


 クロトーは信じられなかった。自分の剣先は何度か女を捉えたハズだった。ところがあの薄い鎧が剣先を弾く。

 アレは……まさかと思うが本当に金属鎧なのか。あんなに薄く体にピッタリと作れる物なのか。

 ウルダは鉱山に力を入れ、金属装備を作っているとは聞いていたが。それはクロトーも知っている、分厚くクソ重いシロモノだった筈だ。頑丈なのは分かるが、着たくはない。ならば革鎧を選ぶ。

 くそっ、そこまでウルダの技術は発展していたのか。

 そのクロトーの思考がカンチガイだと教える人間はどこにもいない。

 

 仕方が無い。あまりやりたくは無かったが…………

 クロトーの奥義である。

 兵士全員に強化をかける。それが対魔騎士(ナイト)呪術師(ドルイド)の違いと言える。

 対魔騎士(ナイト)が本人の身体能力のみ強化出来るのに対して、呪術師(ドルイド)は優秀な者であれば、複数人を強化出来る。そこにクロトーは自信があった。

 さすがに500人は無理だが、数十人から百人近くまで強化する事が出来るのである。ベテランの呪術師(ドルイド)でもそうそう出来る事ではない。

 だが魔力(プシュケー)を食う。魔石はいくつか持って来ているが、大型の緑魔石(エメラルド)がこれで使えなくなるかもしれない。


 クロトーは自分自身に問いかける。

 意地になりすぎていないか?

 落ちつけ!

 自分がメイブ姉に劣るのはそこだ、すぐカァっとなってしまう。

 ここは一応ウルダ領土なのだ。本気で争う気は無い。むしろ気づかれない様に行動し、スリーブドナードの鉱山に向かう。それが本来の目的であった。

 

 目の前の対魔騎士(ナイト)の言う事に従うのは業腹だが、一度剣を納めるべきか。


 その冷静な思考は長続きしなかった。

 何故なら。

 クロトーの後ろに誰かがいた。誰かが囁きかける。


「そんな小娘、殺してしまえ。

 そして、魔物どもを解き放て。

 人間どもを殺せ。

 そして捧げるのだ…………あの方に。

 …………邪眼のバロール様に」

この作品はカクヨム様にも投稿しています。

そちらの方が先行していますので、先が早く読みたい方はこちらへ。

https://kakuyomu.jp/works/16817139554585514621



YOUTUBE様にてこの小説の朗読動画/オーディオブック投稿中です。

心の広い方はチャンネル登録して下さると最高です。


https://www.youtube.com/@%E3%81%8F%E3%82%8D%E3%81%AD%E3%81%93%E6%95%99%E6%8E%88%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%AA%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%9C%E3%82%A4%E3%82%B9%E3%83%89


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