第22話 努力
セタント・クラインは頑張った。本当に頑張ったのだと思う。
「昨日は999番に頼り切ってしまった。
僕だってクライン家の一人息子だ。
たとえここが地獄だとしても一人前に働いてみせる」
そう金髪の美少年は言った。長い睫毛を見開き、キリリとした表情を浮かべる。その顔は見惚れてしまう程キレイだ。
「気概は分かるが……無理しちゃイカンぞ」
「分かっています」
ヒンデル老人の諫めにそう答えていたが、まったく分かっていなかった。
重たいツルハシを持ち上げ、先端で固い岩盤を打ち付け崩していく。力まかせに打っていたら、あっという間に体力を消耗するし腕だって傷める。
手にはツルハシの柄が擦れて、マメが出来て来る。指先がジンジンしても猶使い続けると、マメが潰れて血が溢れ出る。血まみれの手で働き続けるのである。
そんなコトを続けるうちに腕はブットくなり、指はカッチカチに分厚く腫れあがる。一人前の出来上がりである。
俺は人一倍働く気は有るし、マジメにやる気もある。だが、腕を痛めるのも指のマメが潰れるのもゴメンである。
指にマメが出来ると痛いんだぞ。運動系の部活をした人間なら分かって貰えるだろう。
一個出来ただけでもウルトラ痛いってのに、それが何本もの指に出来る。
しかも潰れて血が溢れた日には、集中して作業なんか出来るモノか。
俺の指にもそんなマメが潰れた痕が幾つもあった。
若いうちからこの鉱山で働き続けて来た証である。日本人、出雲働の意識を取り戻した俺にはもう良く思い出せないのだが、苦労してきたのだ。
瞬間治癒を重ねがけすればそんな痕も消えるかもしれない。けど、俺はそれをしなかった。鉱山で働いてるのにキレイなおててをしてたら怪しまれるだろう。それに……俺が地味に働き続けて来た証である。簡単に治すのは、過去の俺に対して失礼な気がした。
岩の隙間の脆そうな箇所を狙う。ツルハシの重量を巧く利用して、自身の体力を使い過ぎない。
筋力強化
持っている中では小さなクズ魔石を取り出し、俺は唱える。
妖精少女と一緒に地下を突き進む時は主に腕力が強くなる様に意識する。現在は全身に薄く使うイメージ。巧くいったと思う。日々の努力のたまものだ。筋力強化は使っているウチに徐々に慣れて、俺は器用に使いこなせる様に成長している。
「す、すごい。
あの固い岩を、ドンドン突き崩していく。
なんて力強いんだ」
セタントが俺の動きを見て手放しで褒めてくれる。
うんうん。少しテレるけど、たまにはこんな風に褒められるのもいいな。
俺は次々、岩盤を突き崩していく。ツルハシを上に持ち上げ叩きつける。見る間に目の前の岩肌が崩れていく。
いかんいかん。調子に乗ってしまった。やり過ぎたらヒンデル老がついて来れない。
足元に崩れた岩を老人が避けてくれるのである。そこから金属が含まれている鉱石を選り分け台車に乗せて運ぶ。
その先、何処へ持って行くんだろうな。おそらく熱加工して金属板でも造っているのだと思うが、工場が在るのか。俺はまだ良く分かっていない。鍛冶屋でも居るのかもしれないな。
「よーし、僕だって。
999番だけに重労働をやらせる訳にはいかないよ」
俺の動きを見ていたセタントがツルハシを持ち上げる。俺の隣に来て、キリっとした顔で岩盤を睨んでいる。
眉を寄せた真剣な表情もキレイだな。
金髪の少年はツルハシを構え、壁に叩きつけるが……
「あいたたた……」
セタントはしゃがみこんでしまった。ツルハシを手離し腕を抱えてる。
ははぁ、固い所を打ってしまったな。慣れないで力まかせにツルハシを使うとそうなる。
涙目になってしゃがみ込んでる金髪の子。
「ムリをせん方がいいぞ。
999番のマネをしちゃイカン。
この男は特別じゃ」
「あたた、彼が特別なのは理解出来るけど……
でも僕だって」
俺って特別なの?!
なんで、一緒に働いてきたじゃん。いやまー、筋力強化使ってるから多少ズルしてるかもしれないけど。そんなに特別扱いしなくてもいいじゃないか。
俺の思いはよそに、決意の表情で立ち上がるセタント。
ツルハシを上に持ち上げ、力の限り振ろうとするが、少し待て!
「落ち着け、711番」
俺はその腕を掴んでいた。
「あわわわわ、なにするんだ?!」
「そんな風に力まかせにすると腕を痛める。
落ち着いて良く岩壁を見るんだ」
俺が差し示す、岩の壁。そこにはデコボコもあれば亀裂もある。
「弱い部分を狙って打つんだ。
あの岩の間にある亀裂、あそこにツルハシの先端が突き刺さる。
そんな光景を頭に思い描け」
「……あわわわ……
分かった、分かったから手を離して!」
気が着くと俺は金髪の子を後ろから抱くように密着してしまっていた。
「ああ、すまない」
「いや、ありがとう。
言われた通りやってみるよ」
「ツルハシを力を入れて振り回す必要は無い。
手の中でブレてしまわない様、しっかり固定する事に神経を注げ」
「う、うん」
セタントは真剣な顔で俺の言葉を聞いている。正面の岩を睨みながら、ツルハシを握りしめる。
エイッと打ち付ける。俺から見るとまだまだ大振りで狙いも甘いが、先程よりはコンパクトなスイング。
はたして。
ツルハシの先端、鋭く尖る金属が岩の亀裂から中へとスルリと潜り込み、表面の岩肌が崩れていった。
「やった!」
「良し、その調子だ」
セタント・クラインが俺に向かって勝利の笑顔を向ける。
あけっぴろげで子供の様な笑顔。
笑いながら俺に飛びついて来る。
俺も思わず金髪の子を抱き上げていた。その身体は少年にしては華奢で、持ち上げるのが全く苦にならない。
可愛い、かわいい、キャワユイ。
だから!
可愛すぎるんじゃー!!!
「999番と711番!?
何時の間にそんなに仲良くなったんじゃ?」
ヒンデル老人に言われるまで、俺とセタントは気付かず抱き合っていたのだった。
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