第36話 わたしのせい
金髪の少女が少し蒼ざめた顔を俺に晒している。
クー・クライン。
輝くばかりの美貌の少女で、起き抜けであっても毎朝その頬には精気が溢れているのだけど。
今の彼女はその生き生きとした力が感じられない。
目の下には軽く隈も出来ていて…………おそらくは一晩中悩んでいて良く眠れなかったのだと思う。
「弟さんの容態が悪いのなら、見舞いに行って良いんだぞ」
「……行けないよ。
僕はここで守護将軍とまで呼ばれている……セタント将軍だ。
親戚が多少体調を崩した程度で、持ち場を離れられるものか」
「持ち場と言っても……別にここは戦場じゃ無い。
本当に君が将軍な訳じゃ無いし、給料だって発生してないだろう」
「それはそうだけど…………
でもここは魔の山、スリーブドナードなんだ。
魔物が溢れている。
対魔騎士の僕が離れるのは…………」
うん。そんな事を考えているんじゃないかと思った。クー・クライン、彼女は真面目で責任感の強い少女なのだ。
自分が将軍にまで祭り上げられて、英雄と国で呼ばれている。その状況で気軽に魔の山を離れるワケには行かない。
その気持ちも分かるけど。
「クライン領まで馬車で一週間近くかかると言う話は聞いた。
だけど、安心して欲しい。
早い移動方法を手に入れたんだ。
おそらく2日程度で行けるんじゃないかな」
「2日?!
どうやって…………」
「道が良く分かっていないし、距離も移動速度も正確に測った訳では無いから確かな事は言えない。
それでも、通常の馬車の3倍の移動速度はあると思う」
ケルちゃんの鹿車である。
馬車で一週間とゆーのは重い荷物を載せた荷車を引っ張って休み休み移動しての話であるらしい。
こっちはいざとなったら、夜の間も移動出来る。ケルちゃんにそんなムチャをさせるつもりは無いが、俺が引っ張る。多分……馬車とそれに乗った人と鹿の重量程度なら引っ張れるんじゃないかなー。
「……イズモ、気持ちは嬉しいけど。
でも僕は……武人なんだ。
戦場に見習いに行った時点でも教わっている。
親兄弟であっても死に目に立ち会えないくらいの覚悟はしているんだ」
「それは、そうなのかもしれないが…………
しかしたった一人の弟だろう。
ここが今すぐ戦場になる訳でも無い」
「国王の軍がここに向かっているのよ!
すぐにでも戦場になるかもしれないわ」
「だけど、王の娘は寄り道をしているんだろう。
領主に招かれて、宴会をしているから全く軍勢は進んでいないそうじゃないか。
なぁ、クー、キミが責任感が強いのは分かる。
でも弟さんの見舞いに行くくらいはかまわないだろう。
誰も文句は言わない」
そう、俺が言うと金髪の少女は顔を伏せて泣き出してしまった。
「…………どうした?
俺何かイヤな言い方してしまったか」
俺は慌てて訊ねる。
あれ? なんか俺マズイ事言った? 泣かせる様な事は言っていないつもりだけど。
でも女の人の涙って男を慌てさせるものがあるよね。
「違うの、違う。
ごめんなさい……イズモは何も悪くない。
悪いのはわたしなの…………」
クーは話をし出した。その話は順番がメチャクチャで分かり辛かったのだが……
姉のクー、弟のセタント、二人はあまり仲が良くは無かったらしい。
「わたしセタントにキツクあたる事が多かったわ。
だって…………
彼は自然と|対魔騎士の中の対魔騎士を継ぐ子供と言われてて…………
わたしは女だから対魔騎士になるのも難しいだろう、って。
なんなのそれ?」
「…………それでもセタントが対魔騎士になる努力をしていれば良かったわ。
あの子は勉強や本を読む方が好きで、鍛錬にはあまり参加しなくて。
たまに参加しても嫌そうにしているだけで、ローフなんかにお坊ちゃんと揶揄われても、顔をそむけるだけで。
だからわたしが替わりにケンカを買ったりして」
「……それは助けてあげてるんだから良いお姉さんじゃないか」
「ううん、その後でわたしも怒ったの。
セタント、もっとしっかりして、って……」
「わたし弟がサボルからいけないんだ、と思ってキツく言ってしまった。
でも都の学校に行ってみて思ったわ。
わたしは武人を目指しているけど、セタントは争いが好き訳じゃ無い。
彼は勉強の方が好き。
だから…………」
それは…………なんとなくドラマなんかでは聞いた事のある話。家庭内の不和。残念ながら日本の出雲働は一人っ子だったのでイマイチ実感はつかめない。
クーが体の弱い弟にキツク当たってしまって罪悪感を抱いてるのはなんとなく分かったけど……じゃぁ俺はどんな言葉をかけてあげれば良いんだ。
ドラマなんかだと、周りの人はなんて返してたっけ。うーーん、まったく思い出せない。
俺は考えながら口に出す。
「クー、兄弟や家族にキツイ事を言ってしまうのは良くある事だ。家族だからこそ言える事でもあるだろうし。
そこまで気にする必要は無いと思うし…………
それに、だからこそ、弟さんに逢った方が良いんじゃ無いか。
ちゃんと再会して、あの時は自分の言い方が悪かった、と謝ればセタント君も分かってくれるさ」
どうかなー。まずまずまとまった話になってない? かなり良い目の事を言えていると思うんだが。
「うん。
………………やっぱり駄目。
わたし……わたし……
セタントが病気で寝込んでいるのは」
クーは目のはしから涙を零す。赤い目をした彼女はこう言った。
「…………わたしのせいなの」
この作品はカクヨム様にも投稿しています。
そちらの方が先行していますので、先が早く読みたい方はこちらへ。
https://kakuyomu.jp/works/16817139554585514621
YOUTUBE様にてこの小説の朗読動画/オーディオブック投稿中です。
心の広い方はチャンネル登録して下さると最高です。
https://www.youtube.com/@user-vx7ik6wo6x
宣伝でした。




