第2話 深夜の鉱山
人の世はは移り変る。
手の及ばぬ存在だった強大なる神々は既に人の前から姿を消した。陽気な隣人であった妖精も常若の国へと立ち去った。恐るべき魔物たちも巨人も気まぐれな狂気の神々もいない。
人里に姿を表すのは鉄の武器を持って制す事の出来る魔凶鴉程度。姿を消した存在と渡り合うため必要であった呪術師も対魔騎士も価値を下げた。
替わりに台頭したのは鉄を用いて魔法武具を作成する魔法技士。
兵士に武具を与え、広く領土を広げようとするは北方の国ウルダであった。領土にある最高峰スリーブドナードの鉱脈から魔法石と金属を得ることでウルダは戦力を急速に高めていた。
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今日の鉱山労働は終わった。
俺は時計も与えられていないので正確には分からないが、一般家庭の夕食時は過ぎているように思う。
出口で労働者はコインを与えられる。
基本一日五枚。一枚で飯一食と交換。要するに朝昼晩の飯代になる。
すると二枚余る計算になる。
ならば三日に一日くらいは休めるじゃん。などと思うかもしれないが、勿論そんなに甘くない。
ツルハシとヘルメットに作業服だ。
朝から晩まで鉱石を掘り返しているのである。ツルハシなんか三日でダメになる。
作業着もズボンも同じだ。
あっという間に破ける。汗臭くなるのなんか誰も気にはしない。シャツに穴が開いても、ズボンが破けても履き続けるが限界はある。
ツルハシを新調するにも、服を新調するにもコインは取られるのだ。休める余裕なんぞ誰にも無い。
それでも飯を抜いてエールを買うようなとち狂ったヤツもいるが、身体が保つワケも無い。そのウチ倒れて、葬式も無く、共同墓地に葬られるだけなのだ。
一日過酷な鉱山労働をしてそれしか報酬は無いのだが、周りの奴らは文句も言わない。
そんな体力も気力も無い。すでに慣れ切った環境に文句を付ける余裕が無いのである。
「999番だな。
連絡が来ている。
ホラよ、特別にコイン10枚だ」
監視のアホウは連絡するのを忘れなかったようだ。
周りの作業員どもが羨望の眼差しで見るが、俺は無視する。
単に飴と鞭のアメなんだと思う。
良い魔石だったり、希少鉱石の塊を見つけたヤツには報酬がある。奴隷を働かすにも多少の工夫が無いとな。
「423番、オマエは今日コイン一枚だ」
「……そんな!
それじゃ朝メシも食えないです」
「俺が知るか。
普段から貯めとかないのが悪いんだろ」
「ワシは……年食って動きが鈍いってんで普段からコイン3枚しか貰ってないんじゃ。
貯める事なぞ出来はしないんです。
後生ですだ。
もう一枚恵んでくれ。
せめて朝メシの分だけ。
そうでなきゃ、明日もロクに身体が動かないんですじゃ」
今日行き会った老人であった。
こんな事になってるんじゃないかと思った。
「しつこいぞ、ジジィ」
「これ以上ゴネルなら、その一枚も取り上げるぜ」
「年をとっても強欲だな」
「働きもしないくせにメシを食おうってのが図々しいんだってーの」
監視員どもに嘲笑われながら、トボトボと離れていく老人。
俺は人目を気にしながら、サッと近付く。
他の者に気付かれないよう老人の手にコインを二枚渡す。
「あっ……あなたは?!
これは……イカン。
こんなにして貰うワケには……
申し訳なさすぎる」
「気にするな。
タダの貸しだ。
そのウチ何かの形で返して貰うさ」
俺は言って、老人から離れる。
別に全部が嘘でも無い。長く生きてる分知識も多いだろう。俺にはこの世界の知識が足りていないのだ。
メシの時間が終わり、鉱山作業員どもは全員おねんねの時間だ。
さすがに雑魚寝じゃないが、与えられた3段ベッドは木製、板の上にマットレスも無く、毛布一枚で寝るのだ。
日本人の意識を持つ俺では寝れるハズも無い。
周りの男どもは疲れ果てているおかげだろう。あっという間にイビキをかいて眠り込む。
「いいぞ、妖精」
俺が胸の中で語り掛けると何処からともなく現れる。
薄い光を纏った小柄な人影。体長20センチくらいであろうか。昆虫のような透き通る羽が背中で羽ばたく。
身体は少女のようなフォルム。
一応布らしきモノは纏っているのだけど、青くて透けた布。中に肌色が見え、優美なフォルムは丸わかり。
スカートの下から生足は見えてるし、スカートがひらめくとその中も。
俺は少し妖精少女から目を逸らす。
ドキドキなんかしていない。
していないったらしていない。
勘違いしないで欲しい。
俺にちみっちゃい女の子趣味なんかこれっぽちも無い。
ただ……俺はまだ17歳の男子だし、この世界でほとんど女性と触れあっていないのだ。ここにはグラビアも無ければ、成人マンガも無いのだ。
いくら20センチくらいの身長しかない、ちみっこ少女でも胸のふくらみやら生足やらに目が引き付けられてしまうのは男の本能として仕方ない事なのだ。
そうだよな。
「はーい。
じゃ、今日も協力してくれるのだわよね」
「ああ、もちろんだ」
「毎日、良く体が保つだわ~。
正直、信じられないなのよ。
昼間仕事して、夜もなんて。
もう昼間はサボっちゃいなさいだわさ。
人間の世界では小さい魔石でも貴重なんでしょなのよ。
魔石渡せば良いんだわさ」
「そうもイカン」
鉱山で作業もしないで魔石を渡せばアカラサマに怪しい。すぐ目を付けられて終わりだろう。
「ふーーん。
ま、アンタが良いなら良いなのよ。
小さい妖精少女は俺を見ながら呆れたように言った。
「それじゃ……
行くわよだわさ」
妖精少女の合図で俺はその場から姿を消す。
現れたのは鉱山の中だ。
俺には場所が分からない。妖精少女の言う事を信じるなら、昼間作業していた鉱山の下層だ。
「良し」
俺は作業着に木のヘルメットにサンダルと言う労働者スタイル。そこに鉄のツルハシを上に持ち上げる。
あまりカッコ良く無いのは分かっているがこれが俺の戦士姿なのだ。
重いものが地面に打ち付けられるような振動が響いて、姿を現す。
石の巨人。こちらを襲ってくる魔物である。
俺は右手でツルハシを上段に構え。左手で緑魔石を握りしめる。
速度上昇!
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