第17話 初の経験
やっほーーーーい。
ジャンプする俺の身体。速度上昇と筋力強化をかけた肉体は宙を舞う。
高い樹木を越える高さまで跳び上がる事が出来るのだ。緑の葉っぱを飛び越え木の先端に着地。そこからまたジャンプ。
たっのしぃー!
俺あんまアウトドア派じゃ無かったんだけどな。でも現在の俺の肉体は17歳、元気な盛りだし。しかも筋力強化のおかげで自由自在に跳び回れる。有頂天になってトーゼン。
「ゲンキなのよねー」
妖精少女は下の方で呆れたように見ている。一緒に飛ばないのか。
「そんなに早く飛べないだわさ」
そっか、身体がちみっちゃいものな。
「ムチャを言って悪かった」
「なんか失礼なコト思われてる気がするなのよ。
何回も言うけど、アタシはちみっこじゃ無いんだわさ。
アタシだって妖精女王さまが開放されれば……」
ん? 妖精女王。
それが地下坑道のさらに下層に閉じ込められているという話で、俺はその妖精女王を開放するため、深夜作業に勤しんでいる。
妖精女王が開放されるとナニか起こるのか?
その話の続きを訊く事は出来なかった。
ギャハァ ギャギャア
魔凶鴉の鳴き声。それも一羽や二羽じゃない。数十はいる。
焼き鳥の元だな。
赤魔石を取り出して、地獄の炎を唱えようとする俺。
だけど今日はツルハシを置いて来てしまった。高熱で金属の巨人をぶっ叩いたツルハシ。歪んじまったのでほっぽって来たのだ。
「……しまったな」
この地獄の炎、空中に使う事は出来るのだろうか。
良くあるゲームのイメージ。ファイアボールってヤツだ。
前世で社長になった俺にはゲームなんかやってるヒマは無かった。だけど大学生まではゲームくらいは遊んでいる。ゲーム機だって持っていたのだ。そのおぼろげな記憶で言うと魔法と言えば『火の玉』基本だった筈。
空中に『火の玉』が浮かぶイメージを思い浮かべつつ、地獄の炎と唱えるけれど。
ダメだ、こりゃ!
何も起こりはしない。
空中に火が燃えるったってさー。それって何が燃えてんだよ。空気と言うか酸素はモチロン燃焼に必要だけど、それ以外に燃える材料が必要だろ。
怪談なんかで出て来る『火の玉』の正体と言えば、リンじゃないか、なんて説を昔聞いた事があったな。空中に漂う微量のリンが発火現象を起こす。だけどなー。リンと言えば畑の肥料なんかにも使われる良くある物質だ。もしもそれが原因だったら、農家の周りなんか火の玉で溢れかえっちまうんじゃないか。
て、そんなどうでもいい事考えてる場合か!
魔凶鴉は既に目の前。
グギャ、グギャと鋭いクチバシで俺を突こうと飛んでくる。
エイヤッ、と俺は蹴り飛ばす。
落っこちて行く大きいカラス。
俺も自然落下する。木の枝に一端着地。
俺の居る木の周りを魔凶鴉どもが取り囲む。右から左から飛び掛かっってくるのである。
あるものは翼を広げ、爪を光らせて。
あるものはクチバシを前に身体ゴトぶつかって来る。
俺は速度上昇を使って素早くなってるし、筋力強化を使って強くもなってるけど。
不安定な木の上で自由自在に戦えるほど器用じゃない。
この魔凶鴉は日本で見かけたカラスより大柄だし、クチバシも大きい。しかも爪も凶悪。身体から生えてる節くれだった肢に俺を狙うような曲線を描く、尖った爪先。
引っかかれると作業服なんか貫いて、俺の肉体に傷がつく。
「いやーん、だわさ」
声がする方を見ると地上近くで妖精少女が魔凶鴉に襲われている。
「このカラスども!
今行くぞ、妖精少女」
俺は木の上から地面へダイブ。自然落下の勢いを着けて、カラスに向けて踵落とし!
10メートルはある木の上から人間の体重を乗せた蹴りを喰ったのだ。
魔凶鴉はアッサリ潰れた。
「助かったなのよー。
アリガトだわさー」
ちみっちゃい少女が俺の腕に飛びつく。
テレるじゃないか。ちみっちゃいとは言え、女の子に飛びついて貰うなんて人生で初の経験かもしれない。
「ケガは無いか」
「ダイジョーブなのよ。
ウマいコト避けたのだわさ。
危なかったのよ。
あの魔凶鴉の爪ってば毒が有るんだわさ」
うえっ?! 毒?
切り裂かれた作業服の中に見える俺の胸の辺り。赤く傷が着いてるが、それだけじゃない。
傷の周辺が黒ずんでるじゃんか。
しかもジンジンと痛みがマシていくぞ。
これが毒?!
「アンタ?! やられてるじゃないの!
大丈夫なんだわさ?」
瞬間治癒!
俺は黄魔石を取り出して唱える。
見る見るうちに、俺の肉体から傷が消えて行く。赤く血が滲んでいた肉の裂け目が塞がり、周辺の黒ずみも通常の肌の色へと。
「おおーーっ、やるじゃないの。
良かったんだわさ。
良かったんだわさ」
妖精少女が騒ぎながら、俺の傷跡を撫でる。ちみっちゃい手を伸ばして、俺の胸肉を触ってるのである。
……ちみっちゃいとは言え、女の子に素肌を撫でられるのも初の経験かもしれないな。
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