第107話 マグマ
俺の中にマグマがある。それは現在生まれたのでは無い。
以前から、前世記憶で出雲働の記憶を取り戻してから。
あるいはもっと以前から999番の精神の奥で蠢いていた。脱出口を求めてさまようマグマ。
何故俺が社長なんてやらなきゃいけないんだ!
怒りの怨嗟の念が俺の奥底で荒れ狂う。
「女性は死んだよ。
999番を見て言ったそうだ。
私の子供じゃない。
取り換え子だ!
妖精が連れて来たバケモノだとね」
その言葉を聞いても俺には何の感慨も無かった。
ルピナス・エインステインは、隣から俺の表情を伺う。俺を心配してくれているのだろう。だけれども平気だ。
俺を産んだ母親かもしれないが、一度も逢った事も話をした事も無い。赤の他人と一緒。その赤の他人に赤子の頃の俺がどう呼ばれたとしても、現在の俺には関係無い。
フェルガ・マクライヒの方も俺の表情を伺っている。こっちは心配している雰囲気では無い。
こちらの目を見て、どう反応するか、試している。
「……なるほど。
まったく知らなかった話だ。
フェルガ副所長、教えてくれた事には感謝する」
俺がしゃべったとは思えない様な声。およそ人間味にかける棒読み。機械が読み上げたような感情のこもらない声が出てしまった。
「ふむ。
本当に知らなかったのか?」
「ああ。その時、俺は赤ん坊だったのだろう。
周りで何が起きていたか、など知るモノか」
「それは……そうだがな」
フェルガは望んだ反応が得られなかったのか。失望した様に俺を見る。
そう言えば、この女はサディストかもしれないんだった。俺が傷つきショックを受け、泣き叫べば満足だったのか。
「フン。母親が死んでな。
子供は放っておかれた。
一応、食事位は与えられたようだがな。
乳離れした後はここの労働者と同じ扱いだ。
仕事をすれば、コインが与えられる。
しなければメシも食えない。
監視員達はすぐに死ぬだろうと思っていたのだな。
自分たちで殺す程、後味の悪い真似はしたくない。
この環境に耐えられず死ぬのなら、それは自分達が手を下した訳でも無いからな。
ところが、子供は生き延びた。
こんな場所でも多少の情けをかける人間もいる。
食事係りの中年女性に食事を恵んで貰ったり、孫の面倒でも見ている気分の労働者に助けられたり」
「なるほど。
良いハナシだな」
「しかし、幼い子供だ。
限界はある。
体を壊し、何度も倒れたそうだよ。
だけど、魔法医師は呼ばれない。
子供は亡くなる……ハズだった。
死んでしまったか。可哀そうに、せめて共同墓地の片隅に埋めてやろう。周囲の人間は思ったそうだよ。そうしたら子供は何事も無かった様に起き上がり仕事を続けた。
そして……周りの人間達は思い出したのさ。
母親が言っていた言葉をね。
「私の子供じゃない。
取り換え子だ!
妖精が連れて来たバケモノだ」
あの女がそう言っていたなと……」
………………それか。
何とはなしに俺に在った違和感。鉱山労働者達と長年一緒に働いているハズなのに、どことなく遠ざけられている感じ。
999番と言うラストナンバー。ナインナインナインと言う時に、こいつが?! とフシギなモノでも見るかの様な反応をする人間が居る。
いくら強制収容所であっても、犯罪者収容所であっても他の人間たちは多少のグループが形成されている。それはそうだろう。自然、一緒に働く人間、気の合う仕事仲間はどんな場所でも出来るものだ。
ところが俺は一人だった。一人で仕事し、一人で寝ていた。
出雲働の記憶を得て、ヒンデルやセタントと出会うまで誰とも仲良くなった覚えが無いのである。
俺は胸の中の疑問が氷解していく気分を味わう。
疑問が解けるのは良いモノだ。すーっとするような快感があるよな。
そんな事を考える。
何故ならば。
そこに意識を向けていないと…………
奥底のマグマが吹き出してしまいそうだからだ。
いますぐ、目の前にいる女副所長を怒鳴りつけたい。
面白いのか?!
他人の人生を調べて、誇らしげに自分の調べた情報は正しいだろうとひけらかして。
ショックを受ける俺の顔を予想して。
それがそんなに楽しいのか!
人の心をオモチャにして幸せか!
だけど、そんな事はしない。
そのまま俺の体は暴れ出しそうだからだ。
フェルガ副所長だけでは無い。
隣の小学生の様な背丈の女性も巻き込んでしまう。
同情した様なフリをしなくて良い。
傷ついてなどいない。
俺の表情を探って、自分は優しく気が利く人間だとアピールしたいだけだろう。
自分はフェルガなどと違うと。
優しく善良な人間の側だと自分で思い込みたいだけだろう。
ルピナスがナニをしても俺にとって意味は無い。
キミがこの件で俺に出来る事など無いんだ。
だから今すぐ俺の顔を見るのを止めろ!
そんな言葉が今にでも俺の喉からは漏れそうになっている。
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