暁-2
暁 伊織は大阪に帰ると、すぐに“そはやの剣”の大阪支部の命に従い、深山や夜の静寂に潜む妖共を狩る生活に明け暮れた。
伊織の住居は堺とか岸和田とかがある南部のアパートを組織が借りた。
彼女の身分も女子大生で、親に仕送りをしてもらっているという事にしている。
東京、大阪、名古屋、博多…大都市になれば、浮浪者…ホームレスの多い地域が存在する。
そして、そういう者達は、ある日突然居なくなったとしても、家庭のある者と違い大騒ぎにもならないし、真剣に探す者もいない。
(ああ、どこかに行ったんだろう)
と、思われるだけだ。
そういう者達が集まる所には、人を好んで喰う妖も多く集まる。
何故なら、血痕も残さず、死体もなければ、事件にもならないからだ。
山童が天狗に教わった方法がまさにそれで、死体が無ければ、警察もまず動かない。
ある一級河川に架かる大きな橋の下に、段ボールやビニールテントを組み合わせた粗末な家があった。
そこには、野球帽を目深に被った男が1人で住んでいた。
歳は結構若く見えて、30~40代だろうか。
ボロボロのデニム生地のベストを羽織り、土手に斜めに張り付けてある、護岸用コンクリートに腰かけて、ビスケットの缶を空けると、中から拾い集めたシケモクを4~5本取り出し、缶の蓋に葉っぱだけをほぐして入れた。
おもむろにシャツのポケットから、煙草の巻き紙を取り出すと器用に葉を巻き、接着剤がわりに舌で舐めると、仕上げた。
ひとしきり眺めてから出来映えに満足したように2~3度頷き口に咥えると、煙草に火を着け、肺まで煙を吸い込み、数秒間息を止め「ふぅ~っ…」と、実に旨そうに煙を吐き出した。
男にとってその食後の一服が、数少ない楽しみの1つなのだろう。
そうして川面を眺めながら煙草を燻らせていると時折ハヤかモロコかは知らないが、月明かりを反射して魚体が“キラッ”と輝く。
(ああ、綺麗だな…)
男がそう思った時、不意に声がした。
「おじさん。何しとん?」
若い女の声だ。
女は、男の左斜め後ろにしゃがんで話しかけて来た。
「食後の一服しとるんや。お嬢ちゃんこそ、こないなとこで何しとるん?」
男は無精髭だらけの顔を緩めて 、そう答えた。
“若い女と話すのが久しぶりで、思わずにやけてしまった”と、いう感じだろうか。
「実はさぁ…あたしさぁ…家出て来てん。」
女はそう言った。
「相談なんやけど…後ろのテントとかっておじさんのやんね?」
続けてこう言った。
「よかったら、今夜泊めてくれへん?」
「お金はあらへんけど、体で払うわ。」




