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月光の針魔王(リトライ)  作者: 爺増田
異国の密林
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ミンマ・ハンク-3

 ミンマ・ハンクが10歳のとき双子の妹達が産まれた。


 ハンクはまさに猫可愛がりで、言われなくてもベッタリとくっついて妹達の面倒をよく見た。


 母は「助かるわ」とよく褒めてくれたが、父は、ハンクが小さな女の子の相手ばかりしているので少し心配になった。


 それで身体を鍛えさせる意味も込めて、グルカ兵の専門学校に通わせることにした。


 毎日標高2500m付近まで通学し、武術、体術、語学等を習い、終了するとまた4000m付近の住居迄歩いて帰ってくる。


 土日を除くほぼ毎日だ。


 そんな、酸素濃度が薄い、高地での登山のような暮らしでもハンクは、全然へっちゃらだった。


 朝早く家を出て、夕方帰ってくるような日々を続けても、帰ってくると何でもないような顔で妹達と遊び、課題をこなし、接客や配膳を手伝う。


 とても10歳とは思えない少年だった。


 そんな屈強だった少年は、まさにポーターになるべくして産まれたような、天性のシェルパだった。


 初めて山岳隊の荷物を担いで、父に同行したのは、忘れもしない15歳の誕生日の日だった。


 自分の体重より遥かに重い荷物を軽々と背負い、標高8000mを越えヒマラヤ14座に数えられる、世界第8位の高さを誇る、マナスル山を登頂した時だ。


 更に同行している、ポーターの一人が体調を崩し、その分の荷物も幾らか担いだ。


 何十回もポーターを、しているハンクの父も、息切れ一つせずに登頂する、僅か15歳の恐るべき息子に舌を巻いた。


 そうして華々しくシェルパとしてのデビューを、飾ったハンクだったが、それだけに留まらなかった。


 シェルパを、グルカ兵退役後にやる者も僅かではあるがいるものの、そもそもグルカ兵というものは、なりたくてなれるようなものではない。


 徴兵制でも、もちろん志願制でもなく、英陸軍のスカウト部隊が山村を巡回する形の登用のみがただ一つの道である。


 ミンマ・ハンク・シェルパが16歳の時、英軍スカウトがハンクが訓練している専門学校を訪れた。


 スカウトは全ての科目で首位のハンクを今すぐにでも欲しいと言った。


 ハンクの父も、シェルパを辞めて軍に入れと言った。


 グルカ旅団のネパール人達は、イギリス人と比べ待遇も賃金も低く、退役後も雇用契約により帰国させられるが退役年金が安く、働かなければならない。


 なので民間軍事会社に就職し、再び戦地に傭兵として赴く…という人が多い。


 まことに理不尽ではあるが、当時のGNP(国民総生産)が日本の1/10以下の貧しい国では価値観自体が異なるのだ。


 民間軍事会社に就職するのはグルカ兵経験者ならば難しくはない。


 しかしシェルパをやろうという者はほとんどいない。


 何故なら身体がもたないからだ。


 大抵の人か、軍役を終えた後に、数十kgの荷物を担ぎ8000m以上も登る仕事をするより、傭兵の方を選ぶのである。


 それ程ポーターは、きついのだ。


 しかし、ハンクは23歳で退役し、再びシェルパのポーターをやることにした。


 家族と共に暮らしたかったからだ。

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