惨劇-8
「おのれおのれぇ!!」
茨木童子は、左腕で顔を覆い、右手に酒呑童子の頸を抱えるとほうほうの体で逃げ去った。
洞窟内事態が強力な結界が無数に張り巡らされており、時空を切り裂いたり、跳躍することは出来なかった。
つまり“ 退魔震 ”発動前後の攻防を感じ取り、道場から走り出た孤路狼と、茨木童子の純粋な脚力勝負になった。
孤路狼は、全力で走り、建物の裏の北東の鬼門を目指した。
印を組み入り口に入ると、酒呑童子の頸が安置してあった部屋を目指した。
時を同じくして、茨木童子は洞窟内を入り口に向かって走っていた。
この時二人は、既にお互いの存在に気付いており、臨戦態勢で会敵した。
あと100…50…30m…
「ガキーン!!」
すれ違い様に爪と刃がぶつかり合って、お互いに睨み合うと、先ず孤路狼が、口を開いた。
「貴様、何をした?」
「久しいのぉ…忘れもせんぞ、その顔」
茨木童子が、答え、
「いいのか?まだ子供達は息があるぞ?一刻も早く行かんと助からんぞ?」
更に、そう言った。
この時、茨木童子は“ 退魔震 ”を受けたお陰で相当な深傷を負っていた。
しかも、酒呑童子の頸を片手に抱えた状態では、まず勝てまいと、踏んだ。
そして、賭けに出た。
孤路狼は頸を取り返すことと、子供達の命の二者択一を迫られた。
それも、でき得る限り早くだ。
茨木童子は、
「いずれまた会おうぞ!」
と、叫び去っていったが、孤路狼は追わなかった…
子供達の命を優先したのだ。
美琴が、居ることは、知る由も無かったが、真言と双子が居ることは分かっていた。
神乃家党首としては、何に於いても酒呑童子の頸を優先して護らねばならない、この千年、先祖達が血涙を流しながらも護り抜いて来たものを…
11年前に心音を発勁で撃った時のように…非情に徹して、鬼を討たねばならなかった。
しかし、孤路狼は双子達の命を選択した。
それは11年前、双子の両親を救えなかった…しかも使命とは言え、二人の母の命より、鬼を射つことを選んだ自分のことを呪い続けて来たからである。
それは、贖罪であったのだろう。
健気に生きる、双子達の姿を見る度に胸が痛んだ。
あるいは真言が、何時もの状態であれば茨木童子を追ったかもしれない。
しかし、茨木童子は『子供達は…』と、言った。
それは真言が、無事では無い事を物語っている。
今、酒呑童子の頸を持った茨木童子がここまで来ていたのが何よりの証拠だ。
孤路狼が部屋に到着した時、泣き叫ぶ針ニと、横たわる鋼一が、まず最初に目に入った。
次にうつ伏せで、息も絶えだえの真言。
そして、茫然自失で、項垂れている美琴が居た。




