惨劇-6
「お久しゅう御座います。酒呑童子様。」
茨木童子は、酒呑童子の頸の納められている箱に向かって、語りかけた。
箱に張り付けてある、安倍晴明の施した、梵字の御札を“ベリベリッ”と剥がすと、扉を開けた。
茨木童子は、中に納められている酒呑童子の頸を見ると、人目も憚らず大粒の涙を溢した。
そして、頸に抱き付き、頬ずりをした。
感極まっていたのかどうかは、わからないが鬼はその時美琴の首を手放し、両腕で酒呑童子の頸を抱き締めた。
「真言さんっ!!」
その瞬間、鋼一が、美琴の手を引っ張り真言の方へ放り投げた。
虚を突かれた、茨木童子は怒りの表情を浮かべ、背を向けている鋼一に、鋭い三本の爪で襲いかかった。
美琴を投げ飛ばした、鋼一の背中に爪が突き刺さり肉を引き裂いて行く。
針ニは、その瞬間をまるで、スローモーションでも見るように、茫然と眺めていた。
血飛沫が、飛び散り鋼一が、悶絶して倒れる場面を凍りついたように見つめていた。
怖かった。恐ろしくて動けなかったのだ。
鬼は、続け様にもう片方の手で美琴に襲いかかった。
か弱い少女の頭上目掛け、鋭い爪が振り下ろされた。
頭にかするだけでも、豆腐を潰すように軽々と薙ぎ飛ばされるであろうその斬擊を替わりに受けたのは、真言だった。
「美琴!!」
真言は、美琴と入れ替わるような姿勢で抱き締めて、娘を庇った。
背後から袈裟斬りとなった真言は、血反吐を吐きながら突っ伏した。
身体中にその血を浴びて、美琴の眼が徐々に光を帯びた。
「キャアーッ!!パパ!パパッ!!」
美琴の突ん裂くような、叫び声が響き渡った。
「後、子供二人か?」
「さっさと片付けて退散するとしよう。」
「まず、ギャアギャア五月蝿い小娘からじゃ。」
鬼はゆっくりと美琴に近づいて行く。
(僕が護らなきゃ!)
その光景を見て、針ニはポケットに手を突っ込み、安全ピンを出した。
「お願い…お願い…上手くいって!」
震える指先にそれを持つと、安全ピンを触媒に両掌を身体の前で合わせ、そのまま前方に突き出すと右手だけ一気に引き離して破邪の剣を、現出させた。
茨木童子は眼を丸くして驚いた。
「こんな小僧がそれを出せるのか?」
「貴様らあの時の赤子じゃな?」
(もうそこまで成長しておるのか?)
針ニは、畏れおののいていた。
剣を構える手はガタガタと震え、額からは尋常ではない量の汗が滴っている。
その様子を見た、茨木童子は針ニの方向へゆっくりと向きを変え、近づいて行く。
軽々と剣の間合いに入ってくる鬼に、針ニは更に戦慄を覚え、堪えきれなくなって剣を振りかぶって斬りつけようとした。
その瞬間。針ニの左肘から先が、剣と共に無くなった。
首筋には届かなかったが、左の頬骨に沿っても三日月形に抉られ、深い傷を負った。
…いや…殺そうと思えば、腕と一緒に頭を捥ぎ取る位、茨木童子には容易かったであろう。




