惨劇-5
「いいえ…私こそ申し訳ありませんでした。掟を破って鬼と交渉したことで、堅一さんを死なせてしまいました。」
心音は、そう謝り、続けて言った、
「子供達の命を救うことしか…考えられなかった…の…です…」
心音は喉から絞り出すように最後の頼みを続けた、
「わかったもう喋るな。」
真言が遮るように言った。
「いいえ。私ももう助かりません。どうか…どうか…子供達のことをお願いいたします…」
そこまで話して、心音は事切れた。両の眼からは、涙がこぼれて床に落ちた。
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「やっぱりなあ~」
静寂を破るように、鋼一が、声を上げた。
「父ちゃんも母ちゃんも腕利きだったんでしょ?二人揃って交通事故なんかで死ぬわけ無いよなぁ。」
「強い鬼が相手なら仕方無いよ。」
鋼一の目は潤んでいた。
「俺達は真言さんやじいちゃんに、道場でいろいろ習ってるしね。もう大丈夫だよ。」
針ニも敢えて明るさを装い話した。
父母を救えず、鬼にも逃げられて悲しさ、悔しさ、申し訳なさを滲ませ、“ポツリポツリ”と話す真言への子供達なりの気遣いであったのだろう。
酒呑童子の頸の方を向き、想い出を語る三人の後ろ。
階段の下で、突然“ことり”と音がした。
三人は“ギクリ”とし、同時に素早く振り返った。
「誰だ!」
真言が尋ねると、
「そうか…ここに在ったのか…」
嬉々とした女の声が聞こえて来た。
女は暗闇の中でほくそ笑んでいた。
特徴的な高飛車で威圧的な声は11年前と寸分足りとも変わらない。
「貴様…何故ここが…それに気配が全くしなかったのは、どうしてだ。」
「二つ目から答えよう。気を放てばお前や、あの男が気付く。それはこの前学んだ。それで今回は気を殺してここまで着いてきたって訳さ。」
一歩前に進み、階段の影から出ながら、鬼は答えた。
「そして、一つ目の答えはこの娘よ。」
そう言うと、背後から美琴を引っ張り出し、肩に手を置いた。
「先ず、この娘にお主らの後を尾行させた、当然殺気も邪気もない只の子供だからお前らの警戒網にはかからない。」
「おっとまず、最初の入り口の結界だけは解いてやったがな。まさか鬼門に在るとはな。」
「その後は娘に後を尾行させ、そのあとを一定の距離を置き、我が尾行たと、いう訳さ。」
美琴は、まるで夢遊病者のように虚ろな眼をして立っている。
おそらく茨木童子に催眠術のような物をかけられているのであろう。
「おっと動くなよ。人の小娘の首など容易く捥げるぞ。」
鬼は、美琴の首を掴んだまま、鋼一達の前を通り箱の前に歩み寄った。




