表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月光の針魔王(リトライ)  作者: 爺増田
惨劇
51/73

惨劇-4

「逃げられたか…」


 真言(まこと)が呟いた。


 孤路狼(こじろう)堅一(けんいち)と、心音(ここね)の止血と蘇生を試みたが、(命を救うことは出来そうもない)一目見てそう思った。


 真言は、堅一の横に胡座をかくと、


「堅一…言い残すことはあるか?」


 静かな声でそう囁いた。


 堅一は、ゆっくり目を開けると、虚空を指差し、


「…子供達を頼む…」


 そして、静かに目を閉じた。


 真言も小さく頷くと、


「…任せろ」


 と、言った。


 孤路狼は印を結ぶと、


「エイッ!!」


 と、掛け声と共に、人差し指と、中指を揃えて虚空を切り裂いた。


 切り裂かれた空間の向こうには、荒涼とした大地が見える。


 何もない荒れ果てた景色の中に、青い砂漠だけが起伏を繰り返し、果てなく続いているように見える。


 空は緑とオレンジのマーブル模様で渦を巻いていて、まるでシュルレアリスムの絵画のようにも見える。


 無機質のその空間から何かが聞こえる。


 それは、赤子の泣き声のようだった。


 真言は躊躇せず、空間の切れ目をくぐると、赤子の声の方へ向かった。


 幽世(かくりよ)の大気成分は、どうやら現世(うつしよ)と変わりなさそうだ。


 赤子達が生きていて、泣き声が聞こえて来るのがその理由だが、“時間が止まっている”と、いう訳ではなさそうだ。


 何故なら声が聞こえると、言うことは、“時間が動いている”と、いう事だからだ。


 つまり、茨木童子(いばらきどうじ)の言う、

「幽世とは、時の止まった場所」「我々のようなモノのみ息づいている」と、いうのも少し違う。


 元々鬼や(あやかし)の眷属とは喰わなくても、眠らなくても死ぬことはない。


 それは小夜(さよ)と、山童(やまわろ)の例を見れば顕著だ。


 山童は茨木童子に(あやかし)変えられた(・・・・・)が、小夜は山童が作った(・・・)…つまり、狭間の世界(はざまのせかい)こそが、人を(あやかし)に変えられる所なのであろう。


 おそらく幽世とは、まさに現世(うつしよ)が写した世界であり、終末の近づいた世界であろう。


 それ故、鬼を初めとする一部の(あやかし)は、荒涼とした幽世を捨て、現世の覇権を握ろうと密かに目論んでいるのであろう。


「我々のようなモノだけが息づいている」のではなく食べる物も、飲む物もない終末世界(デストピア)では、死なないモノしか生きられない(・・・・・・)のだ。


 青い砂丘を泣き声がする方向へ向かい、双子を見つけた真言は両腕で二人を抱き上げると、


「…ごめんな。お父ちゃん助けられんかったわ…」


 そう言うと、赤子の肌着で涙を拭った。


 空間の裂け目をくぐり、現世に戻ると、孤路狼がゆっくりと穴を閉じた。


 双子を床に降ろすと、母の…心音(ここね)の側に這って行って、顔や胸を触りながら、安心したように落ち着きを取り戻し泣き止んだ。


 信じられないことに、その時心臓が止まっていたはずの心音が、蘇生し、目を開けた。


「おぉ…」


 孤路狼が感嘆の声を上げた。


 心音は真言と孤路狼を交互に見ると安心したように、


「…孤路狼様、真言さん…子供達をどうぞよろしくお願いいたします…」


 そう託した。


 そして、子供達の顔を優しい眼で見つめると、


「可愛い坊や達…強くなるのよ。」


 そう言った。


 孤路狼は、


「すまんの。心音…」


 と、詫びた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ