惨劇-2
二階の書斎に居た、堅一は、不穏な気配を感じ取り階段を降りた。
音を消した足の運び方で歩き、居間に急いだ。
堅一も一流の退魔師だ。
想定されることへの、反撃は普段の稽古や経験則で培った“引き出し”が非常に多かった。
しかし、そこに過信があった。
破邪の剣を出し、居間の扉をソッと開けると心音が、ベビーベッドを覗き込んでいた。
堅一は剣を出したまま、心音の横に行くとベッドの中を覗いた。
「何があった?」
(子供達が居ない)
そう思った途端に心音が持った編み物棒が、堅一の首を貫いた。
「くくくくく、アハハハハ!」
心音に取り憑いた妖が高笑いを上げた。
「その剣が面倒だったが、こうも容易く殺れるとはなぁ。」
「あいつなら、こうはいかなかっただろうよ。」
「だがあいつは現世の生き物。寿命がある。我はただ待てばよかった。」
「血が薄まる迄、幾年であろうとな。」
茨木童子は、過去の渡辺綱と愛刀“ 髭切 ”との三度の対戦でそう判断した。
幽世と現世の狭間の世界で、茨木童子は妖守堅一に語りかけた。
「お主達の身体は、脆い…脆すぎる。」
「たった一撃避け損なっただけでもう駄目ではないか。」
「どうじゃ…我が眷属になる気は無いか?」
「お主達の先祖も幾人か仲間になっておるぞ?」
時がゆっくり流れるとしても、会話が出来るのは僅かであろう。
ならば…と、覚悟を決め、堅一は己れのことは諦めた。
「子供達はどうした?喰ったのか?」
「妻は?」
その怒気を孕んだ覚悟を決めた声を聞いて、茨木童子は、堅一が眷属になることは無いと判断した。
「部屋の灯りが消えてから、身構える迄の速さはかなりのものだった。しかし、我は初めから赤子を狙っていた。」
「その一瞬の差が、結果に表れた。」
「隙を突いて、我は赤子を幽世の中に閉じ込めた。」
「女は、自分の身体と赤子達の無事を交換した。」
「幽世で赤子達が生きていることを確認して、女は身体を開け渡した。」
「赤子達も我等とは違う。」
「放って置けば、いずれ命尽きるだろうし、我が約束を守る、という確証も無かったが、女はそうした。」
「“ 鬼に横道は無い ”と、言うことよ。」
そう言って、茨木童子は高らかに笑うと、横たわる堅一を蔑むように見下ろした。
「そうか…子供達は生きてるのか…」
「ならば子供達は助かるし、おまえも殺れよう。」
堅一はそう言った。続けて、
「気を抜いたな。おまえのような強大な気を放つ者が、先程から注意が足らんぞ。」
そう言うと安心したように、ゆっくりと目を閉じた。




