鋼一と針ニ-8
孤路狼は、道場で鼻の穴をほじりながら、胡座を組んでいた。
美子は、窓拭きをしている。
そこに、真言達が入ってきた。
「あら、お帰りなさい。」
のんびりとした、落ち着いた声で美子が微笑むと、
「何事もなかったようじゃなあ…」
と、言いつつ孤路狼が振り向き、
「…おぉ美琴も、来たんでしゅか?」
と、美琴を見つけて途端にデレついた。
(ホントにじいちゃんって強いの?…)
鋼一が針ニに囁いた。
この大袈裟な口髭を生やした、孫にデレデレしているひょうきんな老人と、先程聞いたばかりの天狗の言動が、どうしても一致しないのだ。
真言は婿養子なので似てなくて当たり前だが…
退魔師、陰陽師達見える者は、その者達だけで千数百年もの間、共同体を作っている。
ただ、よくある普通のコミュニティと違うのは、その存在が極秘であり、地域性は無く、北から南まで全国に散らばっていることである。
その意義は多岐に渡るが、妖に於ける情報の共有と討伐、そして見える者達の継承が主な目的である。
見える者同士で子を作れば、その他の能力はほぼ遺伝する。
つまり共同体とは、結婚の斡旋も大きな役割の一つなのだ。
希にではあるが、遺伝が行われない。あるいは違う能力が開花する、能力の発動時期が遅くなる、複数の能力が身に付く…等、一概に一括りには出来ない。
「天狗の爺さんと、手合わせする約束をして来ました。」
と、真言は言った。
「そうか…今のお前ならいい闘いはするじゃろ。」
と、孤路狼が応えると、
「つきましては、私に何があっても、追っ手をかけたりはしないようにと、一筆したためて戴きたいのです。」
「天狗がそう言ったのか?」
「はい。それもありますが、手加減されてもつまらないですし…」
そう言って、真言は頭を掻いた。
「成る程の…お前がそこまで覚悟しとるなら、書かん訳にはいかんじゃろ。」
孤路狼もそう応えると、立ち上がり、
「今から洞か?」
と、尋ねた。
「はい。」
と、真言は襟をただし、神妙な面持ちで返事をした。
(??)
双子は、なんだかよく解らないが、空気が張り詰めたのを感じた。
美子も解っているようで、一言も発しないが、そういうものを背中からひしひしと感じる。
道場を後にすると、真言は双子を連れてこの神社の中庭へ訪れた。
双子達と美琴にとってソコは幼い頃から、三人一緒に蛟や飯綱達と戯れて遊んでいるいつもの場所だった。
妖が逃げ出さないように結界が張ってあるので、常人には勿論見えないし、触ることも、感じることもほぼ出来ない。
神乃、妖守両家は共同体の中でも特別な地位にいる為、金銭面で困るようなことは無い。
しかし、週に二回古武術を安い月謝で教えているのは、純粋に孤路狼や真言が子供達に教えることが好きだというのが大きい。




