鋼一と針ニ-6
簡単に説明すると、《 縦×横、七尺づつの顔から左右の腕が一対生えていて、一度も洗ったことが無いような、脂ぎった汚ない長い髪の毛が延び放題になっている 》
その妖が稲妻のような轟音を伴って、目の前に落ちて来たのだ。
双子は、驚いて声も出なかった。
“おどろく”と“おそろしい”が、この“ おとろし ”と、いう妖の語源であるという説と、“おどろおどろしい”と、いう言葉が元になっていると、いう説があるが定かでは無い。
普段“ おとろし ”は、左右の腕に有る三本づつの爪で鳥居の上に留まっていて、非礼な参拝者や賽銭泥棒を雷と共に、攻撃するという。
攻撃された者は、大抵死ぬか再起不能になるので、戒めも込めて敢えて姿を見せつけるらしい。
つまり“ おとろし ”が落ちて来るのは、“行き”に鳥居をくぐる時ではなく、“帰り”にくぐる時である。
「ホッホッホッホ」
と、耳神社の屋根の上から、笑い声がした。
真言が、
「爺さん。あんたの指図か?」
と、皮肉な笑いを浮かべながら聞いた。
天狗の爺様は屋根の一番上の真ん中辺りに足を組んで腰掛けていた。
「今のは少し危なかったぞ。」
と、真言が言うと、
天狗の爺様は、
「いやいや。お主ならあれくらい気付くじゃろ?」
と、言ったあとで、
「別に間に合わんかったら、間に合わんでもよかったけどの。」
と、呟いた。
「な?賢い妖ってのは、なかなか厄介なもんだろ?」
「むやみやたらに敵とは決めつけられん言い回しをする。」
真言は二人に(気を抜くな!)のサインを送った。
それだけこの妖達が、“ 手強い ”と、言っているのだ。
勿論、真言は双子をただ妖を見せに“ 社会見学 ”に連れて来た訳ではない。
こういう一筋縄ではいかない者達にも会わせたかったのだ。
“ おとろし ”は鋭い爪や牙を持っているが、何と言っても頑丈だ。
しかし、動きは遅く、鍛練を積んだ退魔師ならば、なんとかなる。
問題は天狗の方で、素早く飛び回るだけではなく、遠隔攻撃も近接戦闘に於ける体術もかなりの上級者だ。
それだけで無く、長き年月を一人で生き抜き、積み上げてきた、経験値が他の妖達から、一目置かれる存在となっている。
強い武芸者が、自分の技や腕前を強い者と闘って試したいと、思うのは普通の欲求であろう。
後先を考えずに真言も、
「どうだい、爺さん。ひとつ手合わせしちゃあくれないか?」
と、言った。
「もし、間違ってお主を殺したら、孤路狼の坊主が出て来るじゃろうの。」
「アイツと闘うのは、しんどいからのぉ…」
天狗は、そう言って渋った。
(孤路狼ってじいちゃんのことか?)
鋼一が、ヒソヒソ声で針ニに尋ねた。
(でも、坊主って言ったぞ。アイツ。)
(馬鹿だなぁ。じいちゃんが坊主の頃からあの妖が、居たってだけのことだろ?)
と、針ニが呆れたと、いう態度で返事をした。




