鋼一と針ニ-3
「コイツに気をつけて魚を捕るように言って、なるべく人の目に触れんよう伝えた。そんでそん時は済んだ。」
「それから、ここにもちょくちょく来て、この辺の様子を見たり、コイツから他の妖の情報を仕入れたりしてた。」
「少し前にはお前らを連れて来るから、姿を見せてやってくれとも伝えといた。」
「コイツは、この沼で暮らしとるで、湖を探さんでもええで、楽やしな。」
ざっくりと説明すると、真言は双子に向かって、
「害の無い妖の三平だ。」
と、妖を紹介した。
「オイオイ勝手に名前を付けるなよ。」
と、妖は、反論した。
「昔から、お前みたいな奴は、“三平”って決まってるんだよ。」
と、言って真言は笑った。
「おれの方が遥かに長生きしとんのやけどな。ゲッゲッゲ」
妖は、おそらく笑い声であろう声を上げた。
真言と妖は、旧くからの友人同士のように冗談を交えて会話を楽しんだ。
「ここに来る前は、尾張の池に400~500年済んでて5年位前に川を遡ってここに来た。」
妖は、懐かしそうに言うと思い出したように、
「まだ出来上がっとらんかったけど、鮒や鯉は、もう山程居ったなあ。」
と、呟いた。
「そう言やあ、この下の大きな岩が積み重なっとるところな?昔は鬼が棲んどったらしいで。」
妖が双子に言った。
「京で酒呑童子が暴れまくってた頃に、ここらで鬼といえば、鬼岩の“関の太郎” やったらしいな。」
真言が付け加えた。
妖に別れを告げると真言は双子に、
「どうや?流暢に会話が出来るやろ?」
と、自分の事のように、少し誇らしげに自慢した。
「アイツみたいに良く喋る奴もいれば、無口で心を開かん奴もおる。」
「人間も妖も、あまり変わりはない。」
真言は最後にこう言った。
「鬼以外はな…。」
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《♬ 牛んぼ 牛んぼ 何処で鼻欠いた 西洞の坂で 鼻欠いた ♫》
と、いう唄もある “牛の鼻欠け坂” に続く謡坂(土地の人は、おとざか と、言う)は、あまりにも長くて急な坂が続くため、旅人が気を紛らわす為に唄を謡ったという云い伝えもある。
次に真言が双子を連れて来たのは、そんな中山道の通り道だった。
まず、石畳が敷き詰められた、軽トラ一台がギリギリ通れる程度の “牛の鼻欠け坂” を民家の脇を抜けて歩いた。
途中放し飼いになっている、元気な鶏達が縄張りを主張して、三人を突ついた。
突然、両側が背の高い杉林に変わり、石畳も砂利道に変わると、ここからが謡坂だ。




