鋼一と針ニ-2
中でも、神乃、妖守は、安倍晴明と、渡辺綱の子孫の一族の中でも特別であり、名字を変えて京都から離れて岐阜の僻地で神社の宮司をやっているのも、重大な任務がある故である。
この千年余りの長き年月、その任の為に度々名を変え、子孫達の能力を落とさぬよう、厳しい鍛錬を続けて来た。
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真言が最初に双子を連れて行ったのは、松野湖という、名前の湖だった。
そこは岐阜県の東濃地方にある大きな人造湖で、貸しボート屋もあったし、ヘラブナや鯉を釣る人々がそこそこ居る割には、閑散としていた。
ダム(松野湖)のすぐ下流にある、“鬼岩公園”と、共に飛騨木曽川国定公園に指定されているにも関わらず、あまりにも過酷な道程であるため、1961年の完成以来、どんどん観光客も減少の一途を辿って行った。
外周約8kmの歩道も、ほとんど整備されておらず、特に湖の西側の道は昼間でも薄暗く、倒木、崖崩れ、蝮、猪、雀蜂の巣など酷い有り様だった。
そんな湖の西側に、一際薄暗く、どんよりとした場所がある。
湖にくっついた沼のような所が、立ち枯れの広葉樹や常緑樹に囲まれている所である。
それらの木々はまだ秋の最中なのに、あちらこちら雪化粧をしているように見えた。
よく見ると、それは鵜の糞であり、ここが大量の鵜の営倉地であることが分かった。
沼の西側30m位の場所を緩やかな弧を描き、背の高い鬼ススキが埋め尽くしている。
朝早くには鵜達が水面を滑走して飛び立つ姿や、水中深く潜って魚を捕る姿を見ることが出来る。
鬼ススキを掻き分けて、真言は双子を湖岸に立たせると、
「あの辺りを見てろ。」
と、湖面を指差した。
しばらくすると、水面が揺らぎ、気泡と共に水中から、頭らしき物が現れた。
目はギョロリとし、嘴のような大きな口があり、鼻はそこに二つの穴のような物が穿いているだけだった。
凶悪そうな顔のその妖は、真言に向かって、
「よう。」
と、言って片手を挙げた。
双子は驚き、
「!…真言さん…」
「!…知り合いなの?」
と、言った。
「ああ、3年程前にコイツの調査依頼が来てな。」
真言は涼しい顔で答えた。
「観光協会の連中は、半信半疑だったが、お前らも知っての通り、希に見える者が居る。」
「たまたまそういう観光客が複数居て、コイツを見たとかだろう。」
「当時はここも出来たばかりだったし、変な噂が広まるのは避けたかったんやろな。」
「ところが、来てみりゃあコイツがのんびり魚を捕ってるだけやったしなぁ…」
「当時、事故も含めて死人は、一人も出てなかったし、ただコイツを“見ただけ”だろう。」




