鋼一と針ニ-1
「テヤーッ!!」
「ラーッ!!」
“ガキ~ン!!” 二人の声変わり前の、甲高い掛け声と、激しくぶつかり合う鍔迫り合いの音が三人しか居ない道場に響き渡る。
1965年の晩秋。神乃道場でのことである。
鋼一と針ニは12歳になろうとしていた。
神乃真言は、二人が物心着く前から師として、父として、“継承して行く者達”を着実に育てていた。
堅一と心音、鋼一達二人の父母…妖守夫妻が自動車事故で亡くなった時、双子の兄弟はまだ、たったの1歳だった。
それ以来、真言と美子は、二人を実の子のように育て、“継承する者達”としても鍛えて来た。
そして、二人が7歳の時、美琴が産まれた。
以来三人は、まるで兄妹のように育った。
「そこまでっ!」
真言が号令をかけた。
「今のはどちらの勝ちか分かるか?」
真言が尋ねた。
「…針ニの勝ちです…」
「何故だ?」
「おれの小手が左腕に入った瞬間、針ニは咄嗟に右手に力を込め、竹刀を持ち代えることなく、身体毎ぶつかってきました。」
「真剣なら致命傷を負ったのは、おれの方です。」
「そうだ。分かってきたようだな。」
「お前達が戦う相手は人ではない、腕を斬ろうが、頭を割ろうが決して油断するな。」
「殺した方が勝ちだ。」
「…ところで、もうじきお前達も12歳だな。」
真言は“ニヤリ”と笑い、もったいつけて切り出した。
「妖守と、神乃両家の者達は12歳になる時、余程のことでもない限り、課外授業に出かける決まりだ。」
「この神社の広大な敷地で面倒を見てる蛟や、狐狸、飯綱なんかとは訳が違う、知能も凶悪さも有る、深山に棲む者達に会う。」
「中には人には見えない結界を張り巡らし、“そ~っ”と、中に引きずり込み、頭から“ムシャムシャ”と、食べる奴もいるぞ~」
身振り手振りで、散々双子を怖がらせた後、
「まぁ…おれも一緒に行くから安心しろ。」
と、真言は言った。
「見聞を広める為の、社会見学みたいなものと、思えばいい。」
普通の人間には、妖が姿を見せようとするか、余程波長が合わない限り姿を見ることは出来ない。
しかし、神乃、妖守一族のように、生まれつき見る力が備わっている者達もいる。
全国に僅か数百人と、言われる退魔師や陰陽師の子孫達は、目立たず、密かに暮らしている。




