関の太郎-3
土間に突っ伏している山童の周りに猪が二頭寄ってきて“フンフン”と鼻を鳴らして匂いを嗅ぎ始めた。
顔の近くで匂いを嗅ぐ一頭を、片手で払い除け、山童は起き上がろうとしたが、鬼に後頭部を踏みつけられ、再び土を舐めることになった。
“ギシッ…ギシッ…” と、音を立てる頭の音を聞いて、山童は力の差を思い知った。
山童が決して弱い訳ではない。
実際に、およそこの400年近く野犬や狼に囲まれようが、巨大な猪や熊に出くわそうが薙ぎ払って来た。
まさに無双状態だった。
ただ、妖達の送る膨大な量の時間からすれば、山童と小夜が生きてきた時間などほんの僅かなモノに過ぎず“経験”と呼ぶには浅すぎたと、言えよう。
(本物の鬼と己では、これ程の差があるのか?)山童は心底驚いた。
「誰が頭を上げていいと言った?」
鬼が冷ややかな声で言った。
身動きも出来ず、山童は土間に顔を埋めるしかなかった。
「解ったら、さっさと行ってこい。」
「俺がこの家を襲撃したのは、“この村の方から妖の匂いがする”と、猪達が言うからせっかく来たんだが…」
「なり損ないとはな。まあ、仕方ないか…」
そこまで話した時に、突然玄関の入り口の左側から、凄い速さで黒い影が現れた。
小夜は目一杯両足を開き、腰を落とした姿勢で足の裏と右掌で急制動をかけて停止した。
そして、鬼に頭を踏みつけられている山童を見るや否や、怒りの形相となり、停止した時の砂埃も収まらないうちに、鬼に向かって突進した。
「ゥアーアー!!」
声にならない怒りをぶつけるかのように、小夜は全力で鬼に体当たりした。
速さは目を見張る程の物があり、脚力と合わせれば相当な威力となり、普通の動物ならば問題なく倒せるであろう。
しかし、相手は鬼だった。
鬼は「なんだこりゃ?」と言って、小夜の渾身の一撃を胸で軽々と受け止めると、まるでコバエでも払うかの如く払い除けた。
「兎の魂に、娘の魂をくっつけたわけか。」
「どうせ茨木童子様あたりの進言であろう。」
「よいか、いいことを教えてやろう。もうじき酒呑童子様が復活なさる。後十数年だ。」
「その時に、退魔師や陰陽師等がしゃしゃり出て来ぬように掃除しておくようにとの御達しだ。」
茨木童子の言った“来たるべき時”が、もうそこまで来ていた。




