関の太郎-2
仕方なく道端に据えておくと、鬼になった頚が桶を破ってそのまま飛び、暫く飛んだところで檜の根本に落ちたので、そこに埋めて“鬼の首塚”と、した。
これが、《大寺記》の鬼退治の部分を解りやすく現代語訳したものだが…
**********************
「なんまいだ~」
と、必死に念仏を唱える老婆の頭を、躊躇なく薙ぎ飛ばし“関の太郎”は、ゆっくり振り向いた。
そして、肩越しに山童を見ると、
「なんや…なり損ないか?」
と、呟いた。
「“なり損ない”とは、己のことか?」
山童は元の妖の姿になり“関の太郎”を睨み付けた。
鬼は涼しい顔で山童を一瞥し、
「おまえ以外に誰が居る?」
と、言った。
鬼とは言っても、角が有るわけでもなく、透き通った蒼白い肌の17~18歳の美少年という感じだった。
ただ、その両目には恐ろしい程の冷たさが宿り、それを裏付けるかのように、右手から滴り落ちる鮮血を“ペロリ”と舐めて薄ら笑いを浮かべる唇が物語っていた。
理不尽に肉塊と化した四人を歯牙にもかけず、山童に鬼はこう言った。
「早速出かけて、退魔師を一匹殺ってこい」
「なんで己が、おまえの言うことを聞かなアカン!」
山童がそう言った次の瞬間。
鬼の顔が目の前にあった。
山童の背丈の方が、遥かに鬼より大きいはずだったが、どういう訳か、今は鬼の方が大きくなり、冷たい視線で山童を見下ろし、こう言った。
「見誤るなよ、小僧。」
その威圧感は凄まじく、まさしく空気を震わせる程であった。
「たかが“なり損ない”風情が…」
呆れた様に吐き棄てると、
「本物の鬼に対する振る舞いを教えてやろう。」
そう言い、山童の頭を押さえつけた。
一見、全く力を込めて無いように見えたが、山童は土間に強烈に叩きつけられた。
**********************
月子に連れられて部屋の中に居た小夜
は、山童のことが気にかかり、絶えず耳を澄ましていた。
200m程度であれば、小夜の聴力ならば集中すれば会話を聞く位は造作も無い。
山童が叩きつけられた音を聞き、小夜は土間に飛び降り玄関を走り出た。
お勝手で急須に茶を入れて、休憩する用意をしていた月子は、慌ただしい小夜の様子に気付き、
「小夜!どうしたん?」
と、声をあげたが、小夜は玄関を出ると直ぐに籠橋家の方へ飛んだ。
いや…正確には、“跳ねた”と、いうのが正しい。
小夜の跳躍力は水平距離で、一跳び50~80m。
籠橋家迄は4~5回跳ねれば辿り着く計算だ。
辿り着いてどうなる訳でもないが…




