束の間のしあわせ-2
「小夜…小夜。己だ。」
山童は隣にちょこんと可愛らしく座っている、小夜の方を見下ろし「この男に化けた」と、言った。
続けて「己は、絶対見つからん訳やで、この三人で一緒に暮らすことになると思う。」
「どうや?ええ考えやろぉ?」
そう言った。
小夜は少々面食らった顔をしたが、数秒後笑顔で頷いた。
山童は小夜に、
「もっと悲しそうな顔をしとらなあかん。」
と、釘を刺すと、月子が戻って来る様子を見て、
「来るぞ。」
と、小声で小夜に合図をして、ハンドルを握り直すと、真面目な顔をして前を向いた。
月子は首を左右に振りながら、助手席に戻って来た。
「駄目やわ。誰かが藁で寝床を作った跡はあるんやけど…だ~れもおらん。」
ため息混じりにそう言った後で、小夜の顔を覗き込んで、
「大丈夫、お父さん絶対に見つけてあげるでね。」
そう言って微笑んだ。
「よいしょ!」
と、月子が再び小夜を膝に抱き抱えるのを確認して、山童は車を発進させた。
しばらくはあちらこちらを、捜索をした。
下り斜面側の棚田は、舗道から隅々迄見渡せるので、ところどころにある、農機具小屋以外は捜す必要もなかった。
陽も傾き、山側の上り斜面の捜索を月子達は途中で打ち切り、一旦家に帰った。
夕飯を食べ終わると、小夜はこの家の飼い猫と座敷で遊び始めた。
その様子を見ながら、山童は白々しく、月子に尋ねた。
「なぁ…おんし、どうするつもりじゃ?」
「明日、まーいっぺん捜します。」
「ほんでも見つからんかったら、どーする?」
山童が再度尋ねる。
「明後日も明々後日も捜します。」
「ほんでも見つからんかったら、どーするんや。」
「そん時は…そのときは…わたしたちが親になったらいかんでしょうか?…」
最初に小夜を見つけた時の、有無を言わせぬ物言いとは真逆の“お願い”だった。
「まーちょっと考えさせてくれや。」
ここまでくれば山童の計画はほぼ成功だ。
内心、しめしめと、思いつつも山童は苦虫を噛み潰したような…真面目に考え込むような…そんな“フリ”をした。
込み上げる喜びを隠しながら。
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三日後。月子は小夜に優しく語りかけた。
「小夜ちゃん、実は、今朝お父さんから電話があってね。」
「少し遠い所迄、出稼ぎに行かなくちゃならんので、しばらくおばさん達と一緒に居ってくれ。って言っとったの。」
「そんでええ?」
父から電話があった云々は勿論口から出任せだ。
小夜が“捨てられた”と、思うと可哀想だと思い、月子がついた優しい嘘だ。
小夜は既に四百年近く生きている。
まともな教育を受けたことは無いが、見聞きしたり、感じたりしたことの積み重ねは多い。
特にこの二十年余りは、天狗の蘊蓄や、言い回し等でかなり学習した。
だから、月子のそういう優しさや機微を理解した上で、月子の本当の夫は山童と入れ替わっていて、おそらくもう生きては居ないだろうこと。
そういう事も全て解った上で尚、涙が溢れ出た。
月子が自分に向ける、痛い程の愛情がその小さな胸に突き刺さるのだ。
小夜はそれ程までに、母親の愛情を渇望していた。




