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月光の針魔王(リトライ)  作者: 爺増田
束の間のしあわせ
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束の間のしあわせ-2

小夜(さよ)…小夜。(おれ)だ。」


 山童(やまわろ)は隣にちょこんと可愛らしく座っている、小夜の方を見下ろし「この男に化けた」と、言った。


 続けて「(おれ)は、絶対見つからん訳やで、この三人で一緒に暮らすことになると思う。」


「どうや?ええ考えやろぉ?」


 そう言った。


 小夜は少々面食らった顔をしたが、数秒後笑顔で頷いた。


 山童は小夜に、


「もっと悲しそうな顔をしとらなあかん。」


 と、釘を刺すと、月子が戻って来る様子を見て、


「来るぞ。」


 と、小声で小夜に合図をして、ハンドルを握り直すと、真面目な顔をして前を向いた。


 月子は首を左右に振りながら、助手席に戻って来た。


「駄目やわ。誰かが藁で寝床を作った跡はあるんやけど…だ~れもおらん。」


 ため息混じりにそう言った後で、小夜の顔を覗き込んで、


「大丈夫、お父さん絶対に見つけてあげるでね。」


 そう言って微笑んだ。


「よいしょ!」


 と、月子が再び小夜を膝に抱き抱えるのを確認して、山童は車を発進させた。


 しばらくはあちらこちらを、捜索(さがすふり)をした。


 下り斜面側の棚田は、舗道から隅々迄見渡せるので、ところどころにある、農機具小屋以外は捜す必要もなかった。


 陽も傾き、山側の上り斜面の捜索を月子達は途中で打ち切り、一旦家に帰った。


 夕飯を食べ終わると、小夜はこの家の飼い猫と座敷で遊び始めた。


 その様子を見ながら、山童は白々しく、月子に尋ねた。


「なぁ…おんし、どうするつもりじゃ?」


「明日、まーいっぺん捜します。」


「ほんでも見つからんかったら、どーする?」


 山童が再度尋ねる。


「明後日も明々後日も捜します。」


「ほんでも見つからんかったら、どーするんや。」


「そん時は…そのときは…わたしたちが親になったらいかんでしょうか?…」


 最初に小夜を見つけた時の、有無を言わせぬ物言いとは真逆の“お願い”だった。


「まーちょっと考えさせてくれや。」


 ここまでくれば山童の計画はほぼ成功だ。


 内心、しめしめと、思いつつも山童は苦虫を噛み潰したような…真面目に考え込むような…そんな“フリ”をした。


 込み上げる喜びを隠しながら。


 *********************


 三日後。月子は小夜に優しく語りかけた。


「小夜ちゃん、実は、今朝お父さんから電話があってね。」


「少し遠い所迄、出稼ぎに行かなくちゃならんので、しばらくおばさん達と一緒に居ってくれ。って言っとったの。」


「そんでええ?」


 父から電話があった云々は勿論口から出任せだ。


 小夜が“捨てられた”と、思うと可哀想だと思い、月子がついた優しい嘘だ。


 小夜は既に四百年近く生きている。


 まともな教育を受けたことは無いが、見聞きしたり、感じたりしたことの積み重ねは多い。


 特にこの二十年余りは、天狗の蘊蓄や、言い回し等でかなり学習した。


 だから、月子のそういう優しさや機微を理解した上で、月子の本当の夫は山童と入れ替わっていて、おそらくもう生きては居ないだろうこと。


 そういう事も全て解った上で尚、涙が溢れ出た。


 月子が自分に向ける、痛い程の愛情がその小さな胸に突き刺さるのだ。


 小夜はそれ程までに、母親の愛情を渇望していた。













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