束の間のしあわせ-1
月子のあまりの剣幕に気圧され、山童は、「おう…」とも「ああ…」とも取れる言葉を発しながら、なかば無意識に頷いた。
長径4尺程の楕円形のちゃぶ台で朝ごはんを食べながら、あれやこれや小夜の世話を焼く月子の姿を見ながら、山童は懐かしい既視感を感じて、涙を堪えていた。
(いつまでもメソメソと…こういった気持ちを忘れられない己なんかが、鬼になど成れようがない。)
昔、天狗が山童に言った、「お主は鬼には成れんようじゃな。」と、いう言葉の意味がよく分かった。
「こんなに小さな子を、一人にしてお父さん何処に行ったのかなぁ?」
「お父さん見つけたら、おばさんが叱ってあげるからね。」
月子はそう言うと、頭上に人差し指を2本、角を連想させるように突き出し、ほっぺたを“プクッ”と、膨らませて、怒った顔をした。
小夜を安心させる為に、わざと大袈裟な身振り、手振りを交えながら、話しているのだろうが、自分が叱られているような気持ちになった山童は“シュン”と、小さくなった。
急いで朝食を済ませ、山童は鍵の付けっ放しの軽トラを動かし、「ワシも一緒に探そう」と言い、月子を軽トラの助手席に座らせると、小夜を月子の膝に抱き抱えさせた。
(自分で自分を探すことになるとは、全く奇々怪々なことになったもんだ)と、山童は思った。
それにしても、天狗が盗んだ車の運転をいつか必ず役に立つからと、覚えさせてくれたことには、つくづく感謝した。
月子が「お父さんとは、どっちに居たの?」
と、小夜に尋ねると、小夜は山の尾根の方向を指差し“あっち”と、いうように月子の方を振り返って頷いた。
「おまえさま、左にお願い!」
あいよ!と、ばかりに斜面を一気に道路まで駆け降りるやいなや、山童は左にハンドルを切った。
道路とはいえ舗装の剥がれかけた粗末な物で、車一台がやっとこさ通れる程度の轍の続いた一本道だ。
トラクターが田んぼに降りたり、車同士がすれ違ったりする為の、粗末な路側帯らしき物が、あちこちに散見できる。
ガタゴト道を、軽トラで数分走ると、小夜が道路の左手にある農機具小屋を指差しながら、「あ~あ~」と、訴えかけるように言った。
山童は当然知っていたのだが…
「ここから来たんでねえか?」と、言って月子の顔を見た。
そして、「ちょっと中を見て来いや。」と、言って月子を軽トラから降ろした。
月子は「小夜ちゃん、ちょっと待っとってね。」と、微笑んで、小夜を助手席に座らせて一人で農機具小屋の中の様子を見に行った。




