天狗の腰掛け松-6
“べり…べりっ…”と、音を立てて、少しづつ顔の皮が剥がされていく。
まだ死んだばかりの遺体を温かいうちに剥ぐ皮は脂肪も固まりきらず、みずみずしい為弾力があり、驚く程綺麗に剥がせる。
まず爪をナイフのように使い、輪郭の切れ込みを入れる。
あとは額からゆっくり剥いでゆくだけだ。
顔の筋肉は淡い桃色をしていて、かなり美しい。
顔の皮を剥がし終えると、山童は男の服を脱がせ、口を大きく拡げ、先ず男の頭を口中に丸々入れ、そのまま前歯だけ使い、食い契った。
そして、そのまま男の頭部を奥歯で二~三度噛み砕き“ごくりっ”と、飲み込むと、首の切断面から“ジュルッ…ジュルルルッ”と、身体中の血液を吸い出した。
山童は、毎回このような面倒な食い方をするわけではない。
これは、天狗に教わった食い方で、簡単に言えば、“証拠隠滅”の方法だ。
山童は普段、人間を補食することは無いが、死人(大人の男限定)なら、喰う。
以前は獣の食害のように食い散らかしたが、天狗に「それはいけない」と、教わった。
人間の団結力は凄まじいものがあり、たった一人の犠牲と言えど、犯人(熊などの獣も含む)を徹底的に追い詰め駆除する。
それはひいては、己れや家族の為であり、村の為である。
「しかし、人間が本当に恐ろしいのは、ソレを拒否することが出来ない同調圧力というやつじゃ。」
「簡単に言えば、やりたくないことでもやらなければならない、“縛り”のようなもんじゃ。」
「人間達はお互いに監視し合い、個人より集団の為に働くようになる。」
「裏切れば、村八分になるのは昔から同じじゃ。」
「やがて村は町、そして、国同士の争いとなり、先の大戦のようになっていく…あの戦で一体どれだけの人間が死んだのか。」
天狗は遠くを見るような眼で呟いた。
「数百年前の人間の武具なら、集団でも戦いようがあったが…今は、目につかんように、ひっそり暮らすのが我々妖にとって、最も重要なことじゃ。」
そう言うと、天狗は痕跡を残さぬように山童が出来る最善の方法を教えてくれた。
それが、この血液を出来るだけ流さないように食べる方法と、顔の皮を使った変装だった。
実際にやるのは初めてだったが、別にやり方さえ覚えれば、山童にとって、そう難しい作業ではなかった。
どちらかと言えば(顔の皮を貼り付ける位で本当に人間に化けられるのか?)と、いうこちらの方が疑心暗鬼だった。
なんでも、男の顔の皮には遺伝情報とかがあって、それを利用する術で、妖ならほぼ出来るらしい。
細かい理屈は、最近科学が発達したおかげで分かるようになったが、変装術事態は何千年も以前からあった。
それ以外にも、天狗は数多くの術を体得していて、気まぐれに、気に入った妖仲間達に伝授してやっているそうだ。
「理屈も大事じゃが経験則は裏切らん。世の中を生き抜いて行こうと思ったら、どちらも大事にする事じゃ。」




