天狗の腰掛け松-5
梟の悲しげな鳴き声が遠くでこだましている。
田ではいろいろな蛙が競い合うように鳴いている。
山童が立ち去ろうとしたその時、“ガラッ”と、扉を開けて男が出て来た。
そのまま家の表にある七尺程の高さの、石垣造りの崖から立ち小便を“ジョロジョロ”と、し始めた。
酒を呑んで酔っているのか、どことなくふらふらとしている。
それにしても、あまりにも月に生き写しの女。
名前も月子と、言うらしい。
数百年を経て幾度も生まれ変わり、やっと巡り逢えたのかも知れない。
もう、運命としか思えなかった。
しかし、今、その女は目の前の痩せっぽちの男に、まるで性奴のように、蹂躙されている。
そう思うと腸が煮えくり返った。
「おい。」
抑えきれない感情が山童の口を開かせた。
「!!」
自分の家の敷地で他人に突然声をかけられ、男は分かりやすく狼狽した。
慌てて山童の方を見て、更に驚くことになった。
身の丈八尺を越える、悪鬼、化け物の類いの生き物が恐ろしい形相でこちらを睨み付けている。
「ヒィーッ!!」
男は悲鳴を上げて後ずさり、運悪く、先程自分が撒き散らした小便の上に頭から堕ちた。
この辺りは低いとはいえ、山の上の方にあたる場所だ。
山を切り崩し棚田を作り、その間を道路を通さなければならない。
その為、まず山の尾根まで緩やかな坂道の道路を造り、その山側に家、谷側に田という、小さいながらも機能的な集落が出来上がった。
大雨による土砂崩れを警戒して、全ての家が石垣でかさ上げして住み家をこしらえてある。
玄関を開けると、二間半程の幅の通路が家の前にあり、車やトラクターが並べられる位の余裕があった。
どの家も似たような造りで、母屋と隣接して、車庫兼作業場があり、軽トラ、トラクター、ノコギリ、スコップ、椎茸の菌を射った、コナラのほだ木なんかが置いてあった。
車庫の前のスロープがそのまま家の前の道路に出る通路になっていて、その高さが石垣の土台になっている。
おおよそ2~3mの高さである。
男はそこから真っ逆さまに落ちたのだ。
運が良ければ助かるし、悪ければ死ぬ。
そういう高さだった。
山童は石垣から飛び降り、男の横にしゃがみ生死を確かめた。
「死んだか…」
山童はそう呟くと、男の額の髪の毛の生え際の辺りに三本の爪を突き立てると、そこを起点にゆっくりと顔の皮を剥がし始めた。




