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月光の針魔王(リトライ)  作者: 爺増田
天狗の腰掛け松
25/73

天狗の腰掛け松-3

 その休耕田らしき田は、一面蓮華が咲き乱れていた。


 山童(やまわろ)はすぐに、人が手を入れた土地だと気付き、山の中に引き返そうと思った。


 だが、普段感情の起伏の少ない小夜(さよ)が、その光景を目を丸くしているのを見て(少しだけならええか…)と思い、小夜が蓮華畑の中で遊ぶ姿を、畦道(あぜみち)に腰掛け眺めていた。


(こんな楽しそうな小夜を見るのは何年振りやろなぁ?)


 山童の足元を一匹の蛙が跳び跳ねながら通り過ぎ、赤楝蛇(やまかがし)が、音も立てずに“そっ”と、後を追った。


 それを見ていた山童の背後で、突然声がした。


「可愛らしい娘さんですね。」


(しまった!)と、山童は思った。


 普段から正体がわからないように人を模して化けてはいるが、完全に化けるには、山童の妖力では、足りない。


 それは、特に顔に顕著に現れ、目は一つ目で、耳まで裂けた口が、いかにも恐ろしげだ。


(振り向く訳にはいかない。)


 山童は、前を向いたまま、


「勝手に入ってすいません。すぐに行きますから。」


 と、そっけなく返事をし、


「おーい。小夜ー。」


 と、小夜に声をかけて、こちらに来るように手招きした。


 蓮華畑の中を山童の方に向かって駆けてきた小夜が、突然たちどまり、目を見開き驚いた。


 小夜の視線は山童ではなく、その後ろに居る女に注がれていた。


 山童は思わず振り返ってしまい(あっ!)と、後悔した。


 しかし、女の顔を見て、そんな後悔すら忘れた。


「…月…?」


 細面の小さな顔、柔らかそうな髪を後ろに束ね、細く整った綺麗な眉、ぽっちゃりとした可愛らしい唇、そして涼しげな優しい眼。


 その女は、月に瓜二つだった。


 女は山童の姿を見て、予想外の言葉をかけた。


「どこかでお会いしたことありました?」


 女は続けて、


「しかし良くできたお面ですね~。」


 と、言った。


 山童は“ほっ”として、顔を逸らした。


「…いえ、知り合いに、とてもよく似てたもんで…」


「私も月子って言うんですよ。面白い偶然ですね。」


 女は、そう言って微笑んだ。そして続けて、


「小夜ちゃんって可愛らしい名前ですね。今日は学校おやすみですか?」


 そう聞いた。


 山童は改めて背中越しに、その声を聞いて、(声迄よく似ている)と、思った。


「ええ…休みなんで、今日は朝から…」


 そこまで話し出した時に、


「オイ!何やっとるんや。もう昼やぞ。月子!」


 と、怒鳴る声に遮られた。





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