天狗の腰掛け松-2
「こっからはわしの推測じゃがな。」
「おそらくその三っつの遺骸…少なくとも、酒呑童子の頚を盗んだのは茨木童子じゃ。」
「大江山の騒動から逃げ延びたのは、気奴だけじゃからの。」
「酒呑童子と茨木童子は旧い仲でな、御互い敬意を持ち、或いは鬼同士とはいえ、愛情のようなものが在ったのかも知れんのぉ。」
「一条戻り橋で、茨木童子が渡辺綱を襲って腕を斬り落とされたのも、その時分じゃ。」
「京の都をうろうろしていて、四天王の一番の腕っこきに出くわすなぞ、予想外だったじゃろうが相手は一人じゃったし、騙し討ちにあったことが、余程腹に据えかねたのじゃろうな…。」
「平等院に行ったのは、再び渡辺綱とやりあって、腕を取り返した後か先かは知らんが、茨木童子が京におったことは間違いない。」
「他の鬼は全て闇に還されたが、玉藻前、大嶽丸、酒呑童子のような、強大な妖は、破邪の武具を以てしても完全には消し去れず、永き年月を経て蘇るのであろう。」
「それが茨木童子が言った“やがて来たるべき時”ではなかろうか?」
『「兵として戦う相手は、陰陽師や退魔師と、いった妖達に仇なす者達じゃろうの。」』
『「さて…山童よ。」』
『「お主は、鬼の為に戦うか?」』
『天狗は何でも知っていたが、関ヶ原の日…あの時、己の心に湧いた紅蓮の炎は350年以上経っても消えはしなかった。』
『この時の己は人より余程、鬼に寄っていた。』
『天狗の問いに己は「無論」と、答えた。』
「しかし、お主は鬼にはなれんようじゃの。」
「お主が山童になったのは関ヶ原の時と言ったじゃろ?」
「人の心を捨てておれば、とうの昔に鬼になっておる筈じゃ。」
『「或いはその娘が繋ぎ止めておるのやも知れんの。」』
『「何か語りたいことがあれば、此処へ来て呼ぶがええ。話し相手位にはなるじゃろ。」』
『そうして己は、天狗の爺様にいろいろ教わるようになった。』
『1960年位のことだ。』
『それから20年位は、何事もなく過ぎ去った。』
『ある日、己と小夜は、うっかり人里まで下りてしまった。』
『ここ何年かで、急速に山の中迄人間達が進出して来たこともあり、そういうことも多々起こるようになってきた。』
山童と小夜がその女と出会ったのも、そんな時だった。




