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月光の針魔王(リトライ)  作者: 爺増田
天狗の腰掛け松
23/73

天狗の腰掛け松-1

 二人にとって、時間は無限にあった。


『どんなに食べなくても、眠らなくても死ぬことは無いが、ちゃんと腹は減るし、眠くなる。』


『夏に水浴びをすれば気持ちいいし、冬になれば人程ではないが寒い。』


(おれ)が捕った獸、鳥、魚、木の実なんかを小夜(さよ)も食べた。』


『しかし生の肉や人は、頑なに口にしなかった。』


『そもそも関ヶ原の合戦以来、大量の人死にが出るような戦いも、この辺じゃあなかった。』


『山で迷ったり、病で死んだりした奴等は何の苦もなく喰ったが、女はどうしても喰えなかった。』


『何百年も山の中を彷徨ってると、色々な(あやかし)とも出会うし、知識もどんどん蓄えられていく。』


(おれ)達はある日、日吉(ひよし)という御嵩(みたけ)瑞浪(みずなみ)か、分からないが、どっかその辺りの山の中で、天狗と出会った。』


 天狗は、松の上の方の張り出した枝に腰掛けて居た。


 いつもそこに座っているのだろう、その枝だけ妙にツヤツヤしていた。


「ほぅ…これは珍しい組合せじゃ。山童と兎か…」


『会話をするのが、数年振りなのもあって、(おれ)は、いろいろなことを話した。』


 聞けば、天狗はもう覚えてないくらい、昔から居たそうだ。


(おれ)は、山童になった経緯を話し。茨木童子(いばらきどうじ)の言った、来たるべき時ってのが、いつ頃なのか、そもそも茨木童子とは何者であり、何が目的なのか…そういうことを矢継ぎ早に質問した。』


『「お主、平安の頃、京を賑わした連中のことは知っとるかえ?」』


『大江山の鬼共だろ?聞いたり、読んだりして知っとる。』


『「なら、話が早いわ。あの連中の大将の酒呑童子(しゅてんどうじ)ってのは、最強の鬼じゃから有名だわな?」』


「その下に四天王ってのがおってな。熊童子、虎熊童子、星熊童子、金童子っていうんじゃが…その上にもう一匹…つまり、副将の地位があってそれが、茨木童子じゃ。』


『「源頼光(みなもとのらいこう)達に討ち取られた鬼達は頼光、渡辺綱(わたなべのつな)坂田公時(さかたのきんとき)等の振るう破邪の武具(はじゃのぶぐ)によって、闇に返された。」』


『「ただ一匹を除いてな。」』


『一匹を除いて?』


『「それが茨木童子じゃよ。」』


『「大江山で騙し討ちに会い頚を落とされた酒呑童子は頼光等を」


 “鬼に横道は無い!”


「と、激しく罵り、首だけになっても尚、頼光の兜に噛みついた…てのは、有名な話じゃで知っとろお?」』


『「じゃが、その後は知っとるか?」』


『いや…知らん。』


『「酒呑童子の頚級(くびじるし)は、宇治の平等院の宝物殿に運ばれた。」』


『「ここに運ばれた(あやかし)の遺物は、宝物殿の長い歴史の中でも大嶽丸(おおだけまる)玉藻前(たまものまえ)、そして酒呑童子の三体だけじゃ」』


『「そして肝心なのはここからじゃ。目録には確かに在ることになっとるそれら三っつの遺骸が、いつからか失せておったのじゃ。」』






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