関ヶ原の記憶-3
呆然とした山童が、土間から板間に上がろうと足をかけた時、男のイチモツが、女房の奥にひときわ深く突き刺さると、男は動きを止め「うっ…」と絞り出すような声を放った。
そして、
「そう、急かすなっての…今、終わった所…」
と、言いながら上気した惚けた顔を、山童の方に向けた。
途端に山童の踵が入った。
「あっ…」と言って、男はだらしなくひっくり返り、イチモツも女房の中から抜け落ちた。
「つき!お月!」『己は女房の名を呼んだ』
月の両手は、着物の帯紐で縛られ、紐の端は柱に固く結ばれていた。
口の端には何度も殴られたのであろう、血の筋が付いており、舌を噛まれないように、絞った雑巾が突っ込まれていた。
腫れ上がった瞼を開け、山童の顔を見ると大粒の涙を溢し、首を横に振った。
両手も縛られ、身体を隠すことも出来ず、口を利くことも出来ない。
首を振ったのは、おそらく(見ないで…)と、いう精一杯の意思表示だったのであろう。
ひっくり返って気を失っている男の陰茎は、まだそそり立ったまま、ぬらぬらとした光沢を放っている。
亀頭から一筋の粘液が、月の茂みの中心に咲いた、真っ赤な花の中に続いていた。
目から零れる、大粒の涙と呼応するかのように、茂みの中心の真っ赤な花からも白い涙が尻を伝って床に落ちた。
『己は女房の両手を縛ってある紐をほどこうと、四苦八苦したが、固く結ばれてて左手ではどうにもならんかった』
『それでまず、女房の口の雑巾を抜き取り、続けて歯と左手を使って紐をほどこうと思った』
月は喋れるようになると開口一番、「小夜を…小夜を助けて」と、懇願した。
月は両手を頭上に上げたままの姿勢で、顔だけ左の仏間を指し示し、声が賊に聞こえないように、努めて小さな声で、絞り出すように叫んだ。
切羽詰まった必死の形相からも、娘を想う母親の並々ならぬ愛情がひしひしと伝わってくる。
『己は頷き、竹箒を取ると、息を殺して仏間に向かった』
『襖を少し開け部屋の中を覗くと、猿ぐつわをされ、縛られたまま転がされている小夜が目に入った。』
『部屋の中には二人の賊が居て、箪笥や引き出しの金目の物を漁っているようだった。』
『己は勢いよく襖を開け放した』
『まず目に飛び込んで来たのは、父っ様の横たわる姿だった』
母の位牌が置いてある山童の父の部屋に、布団が一組引いてあり、その上で父は冷たくなっていた。




