関ヶ原の記憶-1
「ああ、さっき治療院に山童と、
兎の少女が来てさ…」
と、鋼一が話し始めると、針ニが、
「ちょっ…ちょっと待って。いきなり全く理解出来んのやけど。何?山童?うさぎ?」
と、ストップをかけた。
話を遮られた形になった鋼一は、少し不機嫌そうに、
「何?山童知らなかった?」
と、言った。
「いや…そういう話やなくて…きちんと順序だてて…」
針ニが呆れ果てて言葉を途中で切ろうとした時、美琴が助け船を出した。
「先生、口下手にも程がありますよ。あとは私が話します。」
そう言うと、昼間に訪れた人の姿をした山童が第二診療の終わり、患者が一人もいなくなってから再び現れて、いきなり襲いかかってきたが、鋼一が返り討ちにした。
とどめを刺そうと刀を振り下ろした瞬間に少女が山童を庇い、その後、鋼一を襲った動機と経緯を聞いた。
と、実に流暢な説明だった。
《そして、ここからは山童の語った言葉と回想を織り混ぜて話を続けよう》
『己は、関ヶ原の戦に西軍の大谷…もう忘れちまった。大谷某の兵に加わって戦った25~26歳の時だ。』
およそ400年近く昔の話を山童は遠い目をして語り出した。
『初めは悪くなかった。己も何人か叩き斬って、泥の中を前進していたが、突然右後ろに居た味方が裏切りやがった。』
『確か小早川ん所の奴等だ。』
『次に目が覚めた時は、酷い血と糞尿の匂いの中だった。』
『手足の無い雑兵が命乞いする中、敵の兵が次々と刀で突き殺していく。』
『大将首とか金になりそうな奴等は皆、首実検用に首を切り落とされて髪の毛で腰にぶら下げられてた。』
『己は急いで四肢を確かめた。』
『右の手首から先と左の耳が無かったが、足はなんともなかった。』
『己は夢中で走って逃げた。後ろで「逃げたぞ」と、いう声に続いて「放っとけ放っとけ」と、いう声が聞こえた。』
『金になりそうも無い奴は放っとけと、いうことだろう。』
『耳の血は止まってたが、腕の方は酷かった。』
『走ったこともあって、血がぼとぼと落ちる。』
『口を使い手拭いで縛り、己は急いで我が家に向かって走り続けた。』
『女房と娘が待つ我が家へ…』
山童(人間だった頃の名前は敢えて伏せる)が家に着くと、すぐに異変に気が付いた。




