刺青の男-1
寝静まった深夜のアーケード街。
コツコツと足音が響く。
急ぐでも慌てるでもなく、その歩は悠々と静寂の中を突き進んで行く。
時折シャッターの降りたテナントが、風に吹かれてカラカラと寂しげに音を立てているが、誰も気にする者は居ない。
駅からさほど遠くない歓楽街とはいえ、この時間ともなれば、もはや灯火は場末の酒場のイルミネーションと僅かな光量の街灯位しか無く、人影も殆んど見ることは出来ない。
擦りきれたベルボトムのジーンズに、白い長袖のTシャツ、という出で立ちのその男は唐突にビルの隙間の細い路地へと滑り込むと、突然歩を止め、おもむろにジーンズの後ろポケットから煙草を引きずり出し口に咥えた。
ライターの炎が男の端整な顔立ちを照らし出し、その陰影は左の頬骨に沿って残された古い傷痕をチラチラと浮かび上がらせる。
男は天を仰ぎつつ“フ~ッ”と大きく煙を吐き出すと、そのまま囁くように呟いた。
「ここらでええやろ?とっととケリつけな夜が明けるぞ?」
男の声に呼応するように路地の入り口に三人の男達がぬらりと現れた。
見るからに人相の悪い、ソノ筋の人間であることは一目瞭然だ。
「相変わらずええ度胸やな、針ニ。…ほやけどな…」
先頭に立つ麻の白い薄手のジャケットを着た男が、肩をいからせながら言う。
「…今日はただで帰れんぜ。」
「ほう…なんかええもん、くれるんか?」
針ニと呼ばれた男は、三人を一瞥すると飄々とした態度でそう答えた。
「んじゃ!!こらぁ!!」
「ブッ殺すぞ!!クソ野郎!!」
白ジャケットの後ろから、赤いアロハシャツの男と坊主頭の男がいきりたって叫ぶ。
それぞれの手には木刀と鉄パイプが握られていて、この男達が既に臨戦態勢だということは明らかであった。
“まあ待て”と、いうように、白ジャケットは赤アロハと坊主頭を手で制しながら、努めて余裕のある素振りを見せる。
ジャケットの内ポケットから煙草を取り出し火を点けると、一呼吸置いてこう切り出した。
「なあ針ニよ…てめぇが強ぇのは、よぉ分かっとる。」
「…でもな、俺らぁこれで飯食っとるんや。」
「トーシロの風下に立っとる訳にイカンちゅうこっちゃ!」
(トーシロね…)
「お~怖い怖い。」
大袈裟にかぶりを振りながら、針ニは続ける。
「んで?その素人一人をヤル為に、大のヤクザ者が三匹も揃ってこそこそと下手な尾行をしてきたと…」
煙をゆっくりと肺に吸い込み、ニヤリと嘲笑を浮かべながら吐き捨てた。
「…まるでドブネズミだな。」




