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月光の針魔王(リトライ)  作者: 爺増田
月夜の兎
11/73

月夜の兎-11

「この剣は『破邪の剣(はじゃのつるぎ)』闇より産まれし者を闇へと返す道具だ。」


「…………………」


 身じろぎ一つ出来ぬ山童(やまわろ)その顔には無念の表情が浮かぶ。


 鋼一(こういち)は尚も続ける。


「おまえを斬ることは容易いが、このままでは腑に落ちん。」


「僕を襲った理由を聞かせてくれないか?」


「…何も話すことなどはない…斬れ…」


 潔く敗けを認め、山童は静かに目を閉じる。


「…そうか…では、さらばだ。」


 鋼一は、そう言うと剣の柄を握る両掌に力を込め、大上段から一気に斬り下げた。


 この間、僅か十数秒の攻防であったが、美琴(みこと)は息をするのも忘れ、唯々、目の前で繰り広げられる非現実な出来事を呆然と眺めていた。


 壁に背を預け、パイプ椅子の脚を握り締めた掌がじっとりと汗ばんでいる事すら、他人事のように感じられるほど…


 が、鋼一の振り下ろす破邪の剣(はじゃのつるぎ)が、大きく弧を描くその刹那、美琴はその驚くべき光景に反射的に声を上げた。


「ダメェッ!!」


 思わず両手で目を塞ぎ絶叫する。


 1秒…2秒…(時が止まったのでは無いか?)そう思える程の静寂が訪れた。


 …5秒…6秒…美琴は、恐る恐る目を開けると、“ホッ”と安堵の溜め息をついた。


 鋼一は既に剣を振り下ろし、残心を残している。


 しかし…先程の攻防の時と同様に、その刀身は忽然と消え失せている。


 代わりにそこには、山童の前に立ちはだかる、あの少女の姿があった。


 その小さな両手をいっぱいに広げ、その大きな瞳には涙を浮かべ。


 しかし強く。断固とした意思を持って、鋼一の両目を射るように見据えている。


 人だとか化け物だとか、そんなことは関係ない。


 美琴はかつてこれ程美しいモノを見たことが無かった。


 恐ろしい化け物と、それを斬ろうとする、阿修羅の形相の漢。


 そして…その間を分かつように、我が身を投げ出し立ちはだかる可憐な少女。


 その光景は、まるで一枚の宗教画の様に神々しく。


 美しく。


 美琴の心を激しく撃った。


「…小夜(さよ)…」


 山童は少女をそう呼んだ。


「人では無いが…人の心が在る…」


 鋼一は、そう呟くとゆっくりと立ち上がった。


「この娘は、おまえが造ったのか?」


 鋼一はそう山童に問いかける。


「…………………」


「何故こんなことになっている?」


 山童は観念して口を開いた。


「…分かった…話そう…」


 **********************


 大きく開かれた診察室の窓際に鋼一と美琴は佇んでいた。


 夜風に吹かれたカーテンが大きく膨らんでは揺れる。


 雲一つ無い夜空に、月齢14の月が美しくその姿を浮かべている。


「まるで月夜の兎ね…」


 ポツリと美琴が言った。


「…ああ…しばらく臨時休業かな?」




 襟足をつまみながら鋼一は呟いた。







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