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華の子 外典  作者: 烏合衆国
常夏叶織編
6/11

モアインフォメーション?




     ♢




 (サトル)観上(ミア)から生徒会執行部の用事があり遅れるとの連絡があったため、叶織(ハ オリ)は独りで化学室へ向かう。関屋(セキヤ )先生は基本的に化学準備室にいるから、少し授業の質問ができるだろう。聡がいると、基本的に関屋先生は出てこようとしない。

 叶織は化学室の扉を開ける。掃除は終わっているようだ。「失礼します」

「はーい」

 その声は――顧問、ではない。彼はこんなに可愛い声をしていない。叶織は声の主を探す――探す間もなく、前列の真ん中の机に彼女はいた。彼女が振り向き叶織の方を向くと、一ツ結の後髪がふわふわと揺れた。叶織より少し背が低いくらいだろうか、鼻に乗る丸眼鏡が特徴的。

「あら、叶織ちゃん」 

 彼女にそう名前を呼ばれ、叶織は身を固くする。叶織の方はその女性を知らない。彼女は立ち上がり、近づいてきて――叶織を前から抱き締める。

「!?」

「はじめまして」

 はじめまして?

 初対面で、この行動?

秋町(アキマチ)。後輩に怖がられているぞ」その時、関屋先生が準備室から出てきた。秋町と呼ばれた女子は彼の方に顔を向けると、「はーい」と返す――が、叶織からは離れず、抱きついたまま二人一緒に行動する。元の机に戻り、先に叶織を座らせてから、自分も座った。

「じゃあ聡ちゃんいないけど始めよっか。何する?」

「いや、ちょっと待って下さい」

 叶織は流されそうになるのを耐えて彼女を制止した。

「どこかでお会いしたのなら申し訳ないですけど、私は先輩が誰なのか分かっていません」

 その言葉に、彼女は丸眼鏡の奥の目を丸くして、けらけらと笑う。

「嫌だなあ、初対面だよ。はじめまして、って言ったじゃない」

 嫌だなあ、ではないのだが。

 叶織は関屋先生の方を見る。彼は流石に先輩に遊ばれる後輩を不憫に思ったのか、彼女たちから離れたが教卓の椅子に座った。

「じゃあ今日の部活は自己紹介ね。わたしはこの華園(ハナゾノ)高校化学部の元副部長かつ会計かつ交通誘導かつ照明かつ観賞魚かつ盛り上げ役かつ真の主催者、秋町蜜祢(ミツネ )だよ」

「元副部長、ですか?」

 叶織は繰り返す。

「だって今の副部長は叶織ちゃんでしょう?」

「そうですけど……」それは唯一の部員である聡が部長と副部長を兼任していたから、もらった役職のはずである。副部長は別にいたという話は、聞いていない。

「秋町は化学部の部員だ」頬杖をついている関屋先生が、そこで苦々しげに口を開く。「入部届を顧問に提出した生徒、という定義に基づくならな。ただ部活には来ない。そういう生徒が化学部には大量にいる」

「いやいや、来てるじゃないですか」左右にゆらゆら揺れながら蜜祢は反論する。「部員がいないと化学部がなくなっちゃうからね、皆で名前だけ貸してるの」彼女は叶織に向き直り言った。

「八十四人」関屋先生は言う。「化学部の幽霊部員の数だ。数だけ見れば、部活存続の要件は満たしている」

「ホーンテッドマンションみたいですね」蜜祢はけらけらと笑った。

「つまり、秋町先輩は幽霊副部長だったってことですか?」

 叶織は訊いた。

「幽霊副部長! いいね、これからそう名乗ろ」彼女は言って、「はい、今度は叶織ちゃんの番」と手の平を前に差し出す。

「…………?」

「言ったでしょう。今日の活動は自己紹介だって」

「えっと、常夏(トコナツ)、叶織です」叶織は名字と名前を区切って言う。

「モアインフォメーション?」

蜜祢は尋ねる。

「モア?」

「イェス」

「華園高校化学部の現副部長です」彼女は聡や蜜祢の自己紹介をなぞってそう言う。

「モアポジション?」

 蜜祢は尋ねる。

「もうないです」

「関屋センセー叶織ちゃんが役職ほしいそうです」彼女は振り返って言った。「お前の役職はどれ一つとして俺があげたものじゃないだろ」彼は返した。

「いや、観賞魚はセンセーからもらいましたね」

「観賞魚は先生からもらったんですか?」

「観賞魚は役職ではないぞ、常夏」彼は言い。「じゃあ『理性』」何だかんだ役職を口にした。

「理性は役職ですか?」「流石センセーやればできますね」


「こんにウェルシュ・コーギー・ペンブローク~」

「挨拶より語尾の方が長くて実用的ではないです」


 そこにようやく聡と観上がやって来る。

「聡ちゃん! 観上ちゃん! いいところに」蜜祢は手を挙げる。「今から叶織ちゃんが自己紹介してくれます」

「ん? 自己紹介? どれどれ」聡はすぐに蜜祢の隣に回って座る。観上は何だか分からず、とりあえず叶織の隣に腰を下ろした。

 叶織は言うのを躊躇っていたが、先輩二人の視線に耐えられず、「――華園高校化学部の副部長かつ理性、常夏叶織です」と言い放った。

 おお~と盛り上がる二人と、小首を傾げる一人。

 関屋先生は、「……すまん」と呟く。


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