表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
華の子 外典  作者: 烏合衆国
常夏叶織編
5/11

言われてみればそうだね




     ♢




 一年B組では、伴奏者と指揮者を誰にするか決めているところだ。

「まおまお、軽音部なんだからピアノくらい弾けないのか」

「逆に軽音部だからピアノが弾けないんだよ」眞緒(マオ)はひねくれたことを言った。

御唯綺(ミユキ)はキーボード担当でしょう」叶織(ハ オリ)は適当な眞緒の発言にツッコむ。「というか鹿山(カ ヤマ)くん、その『まおまお』って」

「眞緒のこと」

「オレのこと」

「それはそう」

 叶織は返す。「えっと、新しい渾名ってこと?」

「そ。叶織もほしい?」

「別に特にはいらない」

遥樹(ハルキ)だったら『はるはる』」眞緒は話を聞いているのかいないのか、そう続ける。「叶織だったら『はおはお』か。いいじゃん」

「眞緒、ぼくは?」眞緒の隣の席の維墨(イ ズミ)が話に参加してきた。どうやらずっと聞き耳を立てていたらしい。

「うーん……『いずいず』も『ずみずみ』も言いにくいな」

「『まきまき』だろ。ここは」遥樹が言った。どうやら彼はこの渾名大会に乗り気のようである。というか、『まおまお』は彼が考えたのかも知れない。「ただ、『まおまお』。『はおはお』。『まきまき』。この様式だと、皆似たり寄ったりになるんだよな」

「叶織さんと眞緒とかそっくりだよね。五十音表でも隣だし」

「ん? あー、確かに」「言われてみればそうだね」

「その筒井(ツツイ )の辺り。立候補や推薦なら挙手して発言してください」

 前に出ていた観上(ミア)が言う。彼女は合唱祭委員で、この時間をもう一人の委員と共に仕切っていた。

 眞緒は名指しされて、前を向く。

「あー、ごめん()()()()

 そして、そう言い放った。教室が一瞬静かになった後――笑いと拍手が湧き起こる。どうやら一同のお気に召したようである。唯一、観上だけは嫌そうな顔をしているが。

「みあみあ、指揮者は鹿山くんがいいと思います! 身長的に」

 (ヒナ)が挙手して言った。早速、便乗されたようである。

「みあみあ」「みあみあー」「みあみあ!」

「他に候補はいませんか? では鹿山くんがいいと思う人は挙手を」

 無限に連鎖が続きそうだったのを、観上が強引に打ち切って決を採る。

 B組の一同は――揃って手を挙げた。当然、眞緒と叶織も。

「では鹿山くんで決定とします」観上の言葉に、再び拍手が起こる。「では伴奏者は――」

 そうして話し合いは続く。




     ♢




「なあ、はおはお」

「ちょっと待って筒井、その『はおはお』ってなに?」

 昼休み。B組、というか叶織のところに麻依(アサイ )が来ていた。眞緒の使用した単語に彼女は反応する。

「叶織のこと」

「私のこと」

「それはそう」

 麻依は返す。「えっと、新しい渾名ってこと?」

「そ。笛崎(フエサキ)もほしい?」

「全く微塵もいらない」

「でも難しいな、どこを取ろう」眞緒は話を聞かずに続ける。「候補としては――

 ①ふえふえ

 ②えさえさ

 ③さきさき

 ④きあきあ

 ⑤あさあさ

 ⑥さいさい

 ⑦いふいふ

 って感じか」

「全部変だろ」麻依は顔を顰めて言う。「というか『はおはお』も変でしょ。ねえはおりんりん?」

「はおりんりんは変じゃねえのかよ!」

「はおりんりんははおりんりんだもん」

「別に私は何て呼ばれても構わないよ」

 三人がめいめい、意見を述べる。そこへ、観上がやって来た。

「お、みあみあ」

「観上にまで変な渾名つけてるの?」

「さっきつけた」

「……筒井。二度とその渾名で私を呼ばないでください」観上は眞緒を睨みながら言う。「叶織。少しいいですか」そしてそう言って、叶織を連れていった。

「麻依さんの渾名決めたところで、眞緒は呼ばないでしょ?」

 ずっと聞き耳を立てていた維墨が叶織に代わって話を進める。

 眞緒は正直に、「まー呼ばねえな」と答える。

「じゃあ誰が呼ぶ想定だった訳?」「叶織?」「それは望まない」「遥樹?」「なんかヤダ」「我儘だな」

「需要がないトコに供給しても意味ないんだよ」麻依は言う。「『みあみあ』は多少ありそうだけど。あれ、あの子、選挙出るとか何とかって言ってたよね?」

 眞緒は「知らない」と首を横に振り、

 維墨は「そうだよ」と首を縦に振る。

「なんでそんな仲よくないのに渾名考えたの?」

「みあみあがほしいって――」

「言ってません」観上が帰ってきて、眞緒の言葉にそう被せて言う。「あと、二度と呼ぶなと言ったのですが」

「今のは呼んだんじゃなくて、声に出しただけ――」

「二度と」彼女は厳しい口調で言う。「その渾名を声に出さないでください」そうして、自分の席に戻った。

「喧嘩しないの、()()()()」叶織が戻ってきて言った。「……うん、やっぱり変だね。眞緒でいいや」

「オレもそう思う」「あたしもそう思う」

 ここに来て、三人の意見が合致する。

「みあみあーッ! 調子どうだい」B組の教室に――雛と連れ立って、まほろが来た。来訪というより、襲来に近い。観上は――キッと、眞緒を睨んだ。

「え、オレなの?」

「そうだよ」麻依は言い、

「そうだね」叶織は言う。

 この渾名は、結局卒業まで、一部の女子に限られるとはいえ使い続けられた。その名を聞く度に観上は苦い顔をしたが、眞緒はすぐ、そんな渾名を忘れた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ