表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
華の子 外典  作者: 烏合衆国
常夏叶織編
3/11

楽しくいこうぜ




     ♢




 一年B組のHR長は遥樹(ハルキ)が、副HR長は叶織(ハオリ)が務めている。今日は六月の合唱祭に向けて、最初の集まりがある。合唱祭委員かHR長・副HR長が行くのが通例で、二人は放課後、指定された教室へと足を運ぶ。

「あ、はおりんだー」

 一年A組から来ていた理知佳(リチカ)が、叶織に声を掛けた。その他に、半分くらいのクラスからは既に人が来ていた。開始まではまだ十五分くらいある。叶織は、「あっちでいい?」と遥樹に断り、二人で理知佳の後ろに座る。

「お、鹿山(カヤマ)くーん。お二人は二人してHR長?」

「うん」叶織が答える。「それで、あなたは」

「私? 私はHR長の付き添い。副HR長が休みだったからさー。そうだ、紹介するよ、この子は(ナオ)御唯綺(ミユキ)、一年A組HR長」

 そう紹介された女子は、ノートにペンを走らせていた手を止めて後ろを振り向き、

「あ……ども」

 と少し首を揺らした。

「みゆちゃん、はおりんは(アサ)ちゃんと中学同じだったんだって」理知佳が話を膨らませると、

「え! ――えと、尚御唯綺です、よろしく」と改めて頭を下げた。

「うん、よろしく」叶織はそれに応じる。「私は常夏(トコナツ)叶織。今紹介があったけど、麻依(アサイ)と同じ中学出身」

「あれ? そうなのか」

 ぼーっと話を聞いていた遥樹が、そこで話に参加する。そういえば遥樹と麻依と理知佳は皆、陸上部であることを叶織は思い出した。「そうよ」彼女は答える。

「へえ――ん? つまり眞緒(マオ)とも同じ、ってこと?」

 遥樹は同じクラスの友人の名を挙げた。叶織と眞緒が同じ中学なのは知っている筈なので、麻依と眞緒の関係性の話だろう。「道理で、仲がいい訳だ」

「あの、眞緒くんって」御唯綺が言った。「軽音楽部の? わたし、同じバンド組む予定なんだけど」

「えっと、きっとそうだね、軽音楽部って言ってた」

「仲よくしてやってくれ」

「うん――」



「仲よく? 誰と仲よく? おれと仲よく?」



 遥樹の後ろから、ひょっこりと誰かが顔を出した。女性的な可愛らしい顔立ちだが――声を聞いたところどうも男のようである。くりっとした瞳と目を隠すくらいの髪が、中性的な雰囲気を作り出していた。

千紘(チヒロ)。お前――」

「頼まれたから引き受けて来た」遥樹の質問に先回りして彼は答える。「それで? 何の話?」

「ちひくん相変わらず天使だねえ」理知佳が問いに答えずに言った。叶織は――何かが引っかかる。遥樹は、「麻依の話。あ、紹介しとくか。常夏、こいつは――」

笠永(カサナガ)千紘っす。陸上部。皆はおれを」

()使()()()()()()

 叶織はその言葉を発した。千紘は驚いて、「……あれ? 姉貴たちと知り合い?」と訊いた。

「ああ――とある情報筋から、ね」彼女は(サトル)から聞いたのだということを、とりあえず伏せておいた。聞いた時は大して興味を引かれなかったが、多くの情報を持っていると、その場のイニシアチブを取れることに、彼女は気づく。

「何が天使なのかは分かってないけれど」

 そして持っていない情報は、積極的に引き出す。

「上の姉貴は見た目が天使。下の姉貴は跳ぶ姿が天使。そしておれは性格が天使!」

 千紘はあっさり答えた。

 そして自分で自分のことを天使と言った。

「へ、へえ」叶織は言う。実際、何が分かった訳でもなかったが、『天使』が褒め言葉であるのは確かなようだ。見た目。跳ぶ姿。そして性格。機会があれば、上の二人にも会ってみたい――と考えていると、教室の前のドアが開き、教師が入ってきた。合唱祭委員会の委員長が前に出て、話が始まる。




     ♢




「ああ、千紘くんね。叶織ちゃん、陸上部入りたくなったの?」

「なんでもう情報仕入れてるんですか」

 部活の時、聡に笠永弟の話をしたら、そんな答えが返ってきたため、叶織は言う。呆れとは違うが、敬服という程、感情の要素に敬いはなかった。

「仕入れてるとは違うのよ。バイヤーじゃあないんだから」聡は返答する。「強いて言うなら罠師だね。村人を襲撃しに来た人狼を逆に消せる感じの」

「それは人狼ゲームじゃないですか……」

「叶織、人狼ゲームって、何ですか?」立て付けの悪い棚との格闘を終えた観上(ミア)が参加する。

「じゃあやる? 今から」

「え?」

四人村(ワンナイト)。人狼ゲームの最小単位だね。たかゆきセンセー、人狼ゲームやりますよー」

「呼んだら来るんですか?」

「占いアリならやる」

 関屋(セキヤ)先生は準備室から出てきた。

 こうしてルールを全く把握していない観上を含めた四人での人狼ゲームが始まった。



 聡が机の真ん中に自分のスマートフォンを置き、それを四人で囲むように座る。

「役職は村人一人、狂人一人、占い師一人、人狼一人ね。じゃあ順番に回していくから」

 聡が言って、役職の確認が始まる。聡の次に観上。その次に叶織。最後に関屋先生が確認して、中心に戻す。

「それじゃあ昼から始めるね。制限時間五分。お話タイムスタート」

 聡がタイマーのカウントを開始させる。



「じゃあ占いCOからでいい?」聡が問うと、叶織と関屋先生は頷く。観上は二人の反応を見てから、同様に頷いた。カミングアウト(CO)は、プレイヤーが自身の役職を明かすこと。ゲーム序盤で特殊能力者(占い師・霊媒師等)が名乗り出て、進行を取り仕切るのが一般的な流れだ。COは嘘でもいいが、当然自陣が不利になるような嘘は吐くべきではない。今回の村では、たとえば狂人が人狼のサポートをする目的で占い師を騙るのは戦略的にアリだが、村人がそうするのは百害あって一利なしという訳だ。

「さ。占い師だーれだ!」



()()

()()



 聡の掛け声に、彼女本人と、叶織が挙手する。関屋先生はにやりと笑い、観上は無言で同行を見守る。

 占い師が二人いるということは――必然的に、どちらかは必ず嘘吐き(クロ)である。

「なんでノリが王様ゲームの『王様だーれだ!』なんですか」

「楽しくいこうぜ」叶織のツッコミに聡は答え。「まあ議論を進めようか。手を挙げなかった二人は、とりあえず村人陣営(シロ)ってコトでいいですか?」

「ああ」

「ええと、はい」

「かかったね! 占い師は私たちの内どちらかだから村人は一人、つまりどちらかは嘘を吐いた訳!」

「妙な揚げ足取りを……」

「いや、どちらかが村人でどちらかが狂人なら筋は通る。狂人の占い結果は白。カウントも村人陣営だからな」関屋先生がコメントした。「とはいえ今の発言は挙手した二人のどちらかが必ず占い師ということを前提として話していたが、それによって自分が黒でないと誘導していたんじゃないか?」

「揚げ足取り」

 聡は言った。

「……そろそろ話を進めましょう。まず占い先を決めますか」叶織の提案に、

「お、占い合う?」と聡は応じた。

「いえ、占い合っても狂人(シロ)の可能性が高いので、左隣を占うというのはどうですか」

 左隣。聡にとっては観上。叶織にとっては関屋先生。

「うーん、それでもいいけど。二人はどう思う?」

 聡の問いに、

「俺は占い合いでいいと思うが」関屋先生が答える。「どちらも白ならそれでいいだろう。今夜、占い師のどちらかが噛まれれば昼にもう一人を吊る。俺か若那(ワカナ)のどちらかが噛まれれば、昼にもう一人を吊る」

「いいと思いますね!」

「いえ、それだと勝率が五分です――低いと言わざるを得ません」

 叶織が言った。

「互いじゃあない方が勝率が上がるというのか?」

 関屋先生が尋ねる。

「観上、想定してみて」叶織は観上を見た。「占い師が二人、別々の人を占った。そのどちらかが人狼だった場合、その人はどう行動すべき?」

「ええと――」観上は目を瞑って考える。「自分を占った者を、噛むべきではないですか?」

「だけど、その人は占い師を騙っている狂人かも知れない。そもそも、自分を黒出しする人を噛むのは、吊ってくれと言っているようなものだよ」

「なら敢えて、自分を占わなかった方を――ああ、その前提があればこそ」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そこで、タイマーがカウントを終了した。ピピピと電子音が響く。

「いいですね、左隣で」

 叶織は机の真ん中のスマートフォンを掴んで、聡に渡した。聡は受け取って画面をタップする。彼女のやることが終わり、観上、叶織、関屋先生と行動が続く。

 ゲームは次の日へ移り変わる。



『さとる が犠牲になりました』



 画面にそう表示される。噛まれたのは、聡だった。

「占いの結果、先生が黒だった。観上、先生を吊る、でいいよね?」

「――ええ」

 再びスマートフォンが回される。一人一票、吊りたい者に投じるのだ。

 結果が出る。



『たかゆき が処刑されました』

『村人陣営 と 人狼陣営 の人数が等しくなりました



 人狼陣営 の勝利です』



「――いやあ、今回はゲーム初心者の観上ちゃんをいかに丸め込んで自陣に引き込むか、だったんだけど」

「え? そうだったのですか?」

 聡の言葉に、観上は声を上げ、叶織を見遣った。

「うん――でも結果的に、観上が狂人だったからちゃんと人狼陣営(わたしたち)が勝ったんだよ」

「ああ、若那を職業『狂人』から職業『若那観上』にするのは巧い心理テクニックだったな」

 関屋先生が次の(ゲーム)の準備をしながら言う。

 要は、観上がまだルールを理解しきっていないことを利用して、叶織が、話の勢いで都合よく観上を丸め込んだ訳である。勢いがあっただけで、占い合おうが、左隣を占おうが実際に勝てるかどうかは運。それを少しでも自分の方に傾ける戦略として、叶織のやったことが極悪だったかというとそこまでではない。叶織としては、聡を噛んだ後、関屋先生と観上、いずれも敵に回せば勝てないため、どちらかを(狂人でない方だとしても)味方につけなければならなかった。そこからは、起こった通りである。観上の方が、村人だとしても言い包めやすそうだったし、それで関屋先生が狂人なら、なんとなく察して上手く動いてくれると踏んだのだ。目論見は運よく綺麗に進み、叶織と観上が、勝利を掴んだ。

「よし、もう一回! たかゆきセンセー、次の村は?」

「人狼一人、狂人一人、占い師一人、騎士一人」

「とんでもない村ですね」

 ただし、全てが全て、運任せだった訳ではない。最初の占い師COの時。観上が狂人となった時、仲間がいなくなると思った叶織は、手を挙げる時、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ある程度の確信を元に、叶織は観上を、自陣に引き入れた訳だが――観上がそのことに気づくには、まだゲーム回数を重ねる必要がある。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ