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華の子 外典  作者: 烏合衆国
常夏叶織編
2/11

この上ないくらいには大歓迎だよ




     ♢




叶織(ハオリ)ちゃんを迎え、新体制での記念すべき一回目の活動は!」

「活動は?」

「校内清掃」

「――え?」

「手荒い場の水垢とか。床に落ちてるプリントとか。短すぎて使えないチョークとか。更新されない掲示板とか。たかゆきセンセーの机周りとか」

「それは本当に化学部のやることですか?」叶織は訝しげに言う。というか――明らかに違う。

「化学部がやれば、それは化学部のやることなんだよ」(サトル)はそう嘯き、「さ、出発進行」さっさと部屋を出ていく。叶織は不本意ながらも、後へついていった。



 聡の指示で、叶織は廊下に並ぶ自習用の机を端から雑巾で拭いていく。たまに消しゴムのカスが大量に放置されているブースがあって、なかなに手間取る。

 というかやはり、こんなのが活動である訳がない。

 叶織は掃除を中断し、聡を探しに行く。化学室。図書室。職員室。事務室。教室もざっと見てみたが――見つからなかった。叶織は麻依(アサイ)くらい眉を下げる。どうするべきか思案したが――とりあえず、掃除を再開することにした。見つからないというなら、やることをやるしかない。



「――常夏(トコナツ)。下校時刻だ」

 関屋(セキヤ)先生が、叶織を見つけ出してそう声を掛けた。彼女は掲示板から取った雑紙を、所定の回収場所に運んでいるところだった。関屋先生は、叶織の代わりに紙束を持ち、回収箱のところまで二人で歩く。

「ありがとうございます」ゴールに着いて、叶織は言い、「ところで先生、あの――桐嶋(キリシマ)先輩がどこにいるか、分かりますか」

「?」彼は、少し首を傾げる――「桐嶋なら、もうずっと、化学室にいると思うが」



「あ、おつかれ叶織ちゃん。帰ろ」

「あの……先輩」叶織は、前髪をかきあげながら言う。「私だけに、掃除をやらせていたということですか」

「わたしが掃除するなんて一言も言ってないけど」聡はけろりとした顔で返答する。

「…………」

「おや叶織ちゃん、顔面が死んでるよ? 疲れてるんだねきっと、早く帰ってお風呂に入りなさい」

 結局、今日の部活は。

 よく分からないことに、いいように使われただけであった。




     ♢




「叶織。部活だったんですか?」

 下駄箱は学年ごとに区画が分けられていて、三年と一年の下駄箱の間には二年のスペースがあるため、叶織は一旦、聡と別れた。自分のクラスのエリアに行くと、クラスメイトの観上(ミア)もまた、丁度帰宅するところであった。観上は、叶織が新しいクラスで眞緒(マオ)以外、つまり初対面のクラスメイトの中で一番最初に会話した相手である。

「うん。そっちは生徒会だっけ」

「ええ」彼女が生徒会に興味があることを、叶織は聞いていた。既に生徒会室に行ったり、先生に話を聞いたりと、いろいろ始めているそうだ。ちなみにこの学校では全ての生徒が何らかの部活動に入る必要があるが、生徒会役員は例外となる。「今日は、選挙管理委員会の顧問のところに。ああ、それで、もしよかったら応援演説を――」



「叶織ちゃーん、靴履けてる――あら、観上ちゃん」

「会長。今帰りですか――え?」

「え?」



「どうしたの二人とも、意外な人間関係が明らかになったかのような顔をして」

 ()()()()()にして()()()()()()()()である聡は飄々と、しかし的確に二人の後輩の内心を代弁する。



 三人は並んで帰路に就く。「叶織ちゃんはひどいなあ、わたしが会長だって気づかずに接していたなんて」

「入学式という大事な日に職務をサボるからでしょう」叶織は明らかな呆れ顔でそう返す。「そもそも生徒会役員なら、部活に参加しなくていい筈ですよね」

「それじゃあ、たかゆきセンセーが孤独死しちゃうじゃない」

「それは部員数が少ないことに問題があるのでは……」

「その話なんですけど」そこで、観上が参加した。「会長は、生徒会役員ではなかった間、化学部に所属されていて、役員に選出されてからも、化学部に留まり続けられている、ということですよね」

「そだよ」

「私、次の選挙があるまでどこの部活に籍を置くか考えていて――化学部に入ることは、可能ですか」

「可能も何も」聡は、にぃと笑う。「この上ないくらいには大歓迎だよ、観上ちゃん」

 観上は、ぱあっと顔を明るくする――が、すぐはっとして、叶織の方を向く。「叶織。いいでしょうか、私も入部して」

「……いいんじゃない? あなたが、そうしたいんだったら」

 観上は、再び顔を明るくする。「――では、これからよろしくお願いします。会長は、これから選挙までにまたいろいろ教えてください」そしてそう言って、頭を下げた。

「やったね叶織ちゃん」「観上、取り込まれすぎないようにね」叶織は最低限の注意喚起をする――が、あまり伝わらなかったようで、観上は、「? ええ」と首を傾げながら言う。「そうだ、それで話の続きなのですが、応援演説を――」

「そうだ、応援演説、わたしがやろうか?」

 聡が微塵も空気を読まずに発言した。

「現職の応援ってありなんですか?」「さあ?」

「……駄目だと明記されていました」

 とりあえず観上はそう述べる。

「なんだあ。じゃあ叶織ちゃんやったら? 友だちなんでしょ」聡は無責任に言う。「先輩が決める話じゃあないですよ。観上、他の人に頼んでいいから――」

「叶織がやってくれるなら」観上は聡に気後れしながらも、言った。「お願いしたいです。――友だち、ですから」

「……あなたがそう言うなら」

 叶織はそうして、観上と、まだ三ヶ月ばかり先の選挙の約束をした。

 そして、化学部の部員が三名となった。


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