冗談ですよ
県立華園高校化学部。
今年も新たな部員が集まり、新年度の活動が始まる。
「3年D組、部長の相澤らびです。よろしく。次日嘉影クン」
「3年D組、副部長の篝日嘉影です。男バドにも入ってます」
そうして最初の自己紹介が続いていく。
三年生二人、二年生四人、新入部員の一年生が三人。
かつてに比べ、化学部もだいぶ大所帯となった。
二年生も自己紹介が終わり、一年生も女子二人が挨拶をして、最後に残った、眼鏡をかけた男子が大トリを務める。
「1年A組、常夏偉月です。中学ではテニス部でした。よろしくお願いします」
「…………」
「…………」
二年以下はスルーしたが。
三年二人は動きを止める。
偉月は、自分が何かよくないことを言ったかと困惑し、最高学年の二人の顔を交互に見る。
「……えっと、常夏クン? は」らびは何とか心を落ち着かせながら尋ねる。「上に兄姉いる?」
「いませんよ」彼はよく分からないながら答える。
「従兄姉は? 六つくらい上の」日嘉影が続いて尋ねた。
「……いますよ」
彼は警戒しながら答えた。
「どしたんですかー?」二年の歌楓が、挙動不審な先輩たちに尋ねる。
「常夏叶織」
らびはその名を口にして。
新入部員をその場に待機させ、まっすぐ化学準備室に向かった。「失礼します」室内にいるのは――今年も変わらず華園高校に残り、化学部顧問を引き続き任ぜられている、関屋先生である。
「どうした」
彼はパソコンから目を外す。結婚して以降も、学校にいる時間は常に何かをしているのは相変わらずである。
「常夏クンのことです」らびは最低限の言葉で回答を促す。それは信頼感でもあり、不信感でもある。
「ああ――」関屋先生は少し椅子を引いた。「珍しい名字だからな、もう確認は取った。常夏の――常夏叶織の、従弟だよ」
☆
『常夏先輩の――へえ』
輔久はらびの話を聞いてそう返す。『今度会うから、訊いてみよ』
「え? 会う約束をしてるんですか?」
らびは耳聡く反応する。
『あ、いや、遥樹先輩経由でね? という遥樹先輩に会うついでの流れみたいなものでね?』輔久は慌てて言い訳を始める。その様子がおかしくて、らびは「冗談ですよ」とすぐに言い。
「たっくんが常夏先輩のこと大好きなのは、よーく知ってるから」
『…………』輔久は少しふて腐れる。『まあ、何か困ったことあったら言って』
「ありがとう」らびは返す。「おやすみ、たっくん」
『おやすみ、らび』
電話を切る。実際、叶織の従弟が入部してきたからといってどうということはない。先程の言は、ただ輔久をからかっただけのこと――もっともっと、叶織に首ったけの人物をらびは知っている。勿論、遥樹以外で、だ。彼に話したらどのような反応をするのだろうか。まあ彼のほうは、叶織に心酔していることを憚らず、むしろ誇っている節があるため、からかい甲斐はないに違いない。
ということで、次は焔華に電話をかける。彼女はすぐに出た。
『もしもし』
「あ、もしもしお義姉さん。今お時間大丈夫ですか」
『そんなに畏まらなくていいって。うん、丁度お風呂上がったトコだよ』焔華の小さく笑う声が電話口に聞こえる。義姉と呼んもでいるものの、らびは一人っ子で、義理の姉となるような間柄の存在は生まれようもないが、話せば長くなる事情で義理の義理の姉のような存在の彼女には、結構可愛がってもらっている。お義姉さんという呼び方を許してもらえている点がその証明だ。『それで?』焔華は先を促す。
「叶織さん。いるじゃないですか」
『う、うん。いるね』
彼女の反応も微妙なものである。まあ立場的には、らびに近いところではあるが。
「その叶織さんのいとこの男の子が、今年の一年生にいたんです。その上、化学部に入るっぽくて」
『へー……いとこ。叶織先輩には似てるの?』
焔華は結構興味を持ったらしい。
「髪型は違うんですけど。目つきが結構似てるかもとは思いましたね、身長はたっくんくらいでしたけどまだ一年生だし叶織さんのいとこだから伸びるかもです」
叶織の身長は高三時点で171cm、女子としては高いほうで、それを男子に置き換えれば180cmは望めるだろう。そもそも男子の成長期は人にもよるが高校生でもよく身長は伸び、高一時点で輔久の身長=170cmに達しているということは伸びしろ充分である。
『まおに言ったらどんな反応するんだろ』
「言わないほうがいいですよ。見に来られても困るので」焔華の言葉に対し、らびは辛辣に言う。しかし実際、彼のフットワークの軽さ的に、あり得ない話ではない、ということは二人の間の共通認識である。
『それもそうだね……まあ、がんばってね。そのいとこの子だけじゃなくて――最高学年を。ひなたの弟くんと協力して』
化学部副部長、篝日嘉影は、焔華の友人、篝日陽暖の弟である。
「うん。おやすみなさい、お義姉さん」
『おやすみ、らびちゃん』




