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華の子 外典  作者: 烏合衆国
常夏叶織編
11/11

それはまあ本質だろうけど


叶織(ハオリ)ちゃん、血液型なーに?」

 (サトル)の話が始まるのはいつだって唐突だが、何の益体もない話ではないため、叶織はとりあえず耳を傾けるようにはしている。しかし人が人に血液型を訊く理由などこの世に二つしかない、すなわち輸血と、

「占いですか?」

 放課後、化学室に来た叶織は言って、聡の正面に腰を下ろす。

「質問には質問で返せとこの学校では教えてるの?」

「先輩も同じ学校の生徒ですよ」

「お、質問じゃないね。偉い偉い」聡は笑顔で言い、「占いだよ。叶織ちゃん、占いは嫌い?」

「嫌いではないですけど信じてはいないです。特に血液型占いなんて……」

 叶織は言葉を濁して口に手を当てる。。少し言葉遣いが乱れそうだったからである。

「まあまあ。とりあえずテルミー」聡は引き下がらない。

「……A型です」

「A型は真面目で几帳面って書いてあるよ」

 彼女は本を開いて言った。「だから、私は――」

()()()()()()()()()()()()ねー、真面目で感情的って書いてある」

「…………」

「それで()()()()()――」

「先輩。そういうの上品ではないです」

 叶織はぴしゃりと言った。

「ん? 信じてないんでしょ? だからこれはフラットでニュートラルな検討会だよ」聡は忠告を歯牙にも掛けず返す。「見て、この本は十個も特徴挙げてる」

「朝の十二星座占いザッピングとはまた違った、歪んだ楽しみ方ですね……」

 何を言っても無駄かと、叶織は溜息を吐く。

「いやいや、むしろポテチを砕いて白米にふりかけるような、エキセントリックな楽しみ方だよ」

「砕いてる自覚はあるんですね」

「揚棄と言ってくれたまえよう」聡は言葉を切る。「まあ分かるよ。叶織ちゃんみたいな子が、殊血液型占いみたいなのを嫌がるのは。何せ四つの性格に人間を分類できたところで何の意味もないんだからね」

「じゃあこの話は終わりにしましょう」

「ところがどっこいそうはいかなくて」

 聡は不敵に笑んだ。

「たとえば星座占いはその人の生まれながらの運命を見るけど、血液型は運勢と関わってるわけじゃあない。血液型どうしの相性なんかが書いてある本もあったけど、パートナーを血液型から探し始める人なんていないわけで。だけどこれだけ血液型占いは流行った。コレは事実だよ。事実は曲げちゃ駄目」聡はどこか楽しそうに言う。「人間は本性的に分類されたがってるとは聞くけど、そもそも私たちが自分の血液型を知れるようになったのなんてここ百年ちょっとでしょ。あーでも血液型の枠組っていうのは人間が気づく前に元からあったものだからね。たとえばABO式で得られる四タイプっていうのじたいは。このタイプそれぞれに意味を持たせたかったからとも考えられるかも。意味を持たせるために切り分けた十二星座と違って。まあその議論の余地は後世のために残しておくとして、だ」彼女は。「私が今、調査してるのはね、そうして人間を四種に分けるとしたらどう分けるのか、それらは相補的なのか、無駄が多いのか、ぜんぜん足りないのか」

「増やすとしたら――血液型から離れますよね。動物占いとか」

 叶織は真面目に話を聞き、真面目にそう訊いた。

「そうでもないよ。たとえばA型ってAAとAOっていう下位分類があるでしょ。この本ではAOの人はA型とO型の両方の性質を併せ持つ――って主張してる」聡は少し厚めの本を持ち上げて言った。

「じゃあAB型はA型とB型の性質を併せ持たなきゃ駄目じゃないですか。AB型はふつうに独立して存在してますよね? 確か天才肌だかって」

「え? 私が天才肌なんて照れるなあ」

「AB型なんですね。そういえば『そう言われたからそう感じるだけ』っていう話についてはどうですか」叶織は話に乗って、更に質問を投げる。

「それはまあ本質だろうけど。とはいえある側面が、特に強く発露してるってことは別におかしいことじゃないよ。校内いちの不良が捨て猫に傘をさしかけたとして、暴力性を無視してその人を優しい人間と規定することはできないわけで。あーでもピンポイントで『A型のあなたは真面目な性格だよやったね』って言うから、それが自分の最も強い側面だと誘導されてるのかもねえ。自分の血液型を知ってると、他の型の情報をシャットアウトしちゃうっていうのもあるかも。やっぱり必要なのは『無知のヴェール』ってわけ」

「自己完結しないで下さい」

「ちなみに私の今の目標は『自分で占いの新しいジャンルを作る』ことなんだけど。私は信じてないけど好きだから。応援してくれる?」

「教祖になるってことですか」

「どちらかというと度会家行になりたいところだね」聡は笑い。「とりあえずまずは血液型ベースで考えてみたんだけど聞いてほしいな」

「まあいいですけど」叶織は頷く。

「A型は――単純一途♡」

「当たってるな」準備室から、関屋(セキヤ)先生が出てきて言った。

「AB型は――軽薄で嘘吐き♢」

「当たってるな」

「当たってますね」

 二人は言う。

孝征(タカユキ)センセーは何型ですか?」

「Rh陰性(マイナス)

「珍しいですね」叶織は言う。RhはABO式とは別の血液型の分類で、人種にもよるが陽性(プラス)がほとんどを占める。

「俺はRhの占いがない時点で興味はない」

 関屋先生は言い切る。

「うわ叶織ちゃん、この人なんか化学教師みたいなこと言ってるー。どっちかって言うと動物占いに自分の好きな動物がいないって怒り出す子供だけども」

「言い得て妙というか好きな譬えですけど、まあほどよい身近さが売りなんでしょうね」叶織は言う。「血縁を感じるのには人相の次に手軽ではあるでしょうし。意味を持たせたくなるのも、分からなくもなくもなくもなくも――ないかもですね」

「奇数だぜ叶織ちゃん」

「この件は保留ですね」


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