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夕日  作者: 永島大二朗
9/16

問題

 気が付くとテーブル席に客が座っていた。マスターがオーダーを取りに行った隙にちょっとだけ目頭を押さえた。

「いらっしゃいませ」

「ねぇねぇ、何にする?」

「んー、何がいいかな」

「ケーキセットとか、ないかなー」

 残念。Slowtimeにケーキセットはない。

「申し訳ございません。ケーキは御座いますが、セットにはなっておりません」

 マスターが頭を下げた。ほらね。

「えー、この『三種テイスティングコーヒークイズセット・ケーキ付』っていうのはどんなのですか?」

「こちらは、三種のコーヒーと答えを書いた紙をお出ししますので、そちらを見事正解した場合にケーキが付いてきます」

「面白そう!」

 あぁ、一度はやるんだよね。それ。無理無理。知らん振りをしながら聞いていた。

「お二人共ですか?」

「どうする?」

「当たったらケーキだけ頂戴!」

「えー!」

 当たる訳ないんだから無理だって。

「男性用メニューはこちらになっております。どうぞその中から三種お選び下さい」

「はい。判りました」

 男性客はメニューを開いた。どうやら今日の問題はブルーマウンテンの様だ。

「お、ブルマンじゃん。これなら判るぜ」

「カッコイイ!」

「あの、このメニューどうやって見るんですか?」

「はい。あ、こちらはですね、ブルーマウンテン百%で淹れたことになっているけれど、実は十%、こちらは正真正銘五%、こちらはゼロ%です。水も三種から選べまして、ミネラルウォーター、ただの水道水、浄水器を通した水道水です」

「はい?」

「こちらの三つを組み合わせまして、更に時間経過をご選択下さい。淹れたて、昨日淹れたて、ムフフです」

「ムフフって何ですか!」

「いえ、それはお答え出来ませんが、きちんと保険所の検査には合格しています」

「それはかなり難しいな……」

「正解致しますと、あちらの大きなケーキを差し上げます」

「チャレンジだよ!」

 女性客が叫んだ。

「女性用もあるんですか?」

「はい。ございます。こちらがメニューです。どうぞ」

 女性用は一つしかない。マスター、女性には親切だからな。

「女性用はホットコーヒー、アイスコーヒー、缶コーヒーとなっております」

「え、そうなの? やったー」

「なにこれ! ずるくない?」

「正解致しますと、あちらのちいさーなケーキを差し上げます。あ、ちなみに缶コーヒーは五十種からブラインドで当てて頂きます」

「それは無理!」

「無理だから!」

 だから無理だって言ったのに。

「じゃぁ私、紅茶にするわ」

 勇気のある発言が出た。「かしこまりました」とマスターは言うと、息を大きく吸って言い始めた。

「本日の紅茶は、セイロン島で山田さんが丹精込めて育てた苗木と、田中さんが選び抜いた苗木を掛け合わせ、最高品質の紅茶を作り上げたという伝説を聞きながら、佐藤さんが実生から大事に育てた品よし、味良し、香り良しと三拍子揃った茶葉だけを厳選してブレンドされた他にはない味わいと良く似たティーパック入り紅茶と、中国は福建省で加藤さんがウーロン茶にするはずが、うっかりものの竹内さんは発酵させてしまい、やむなく吉田さんによって紅茶になりました。という感じの味がするティーパック入りの紅茶です」

「は?」

「どちらになさいますか?」

「え、最初の方で?」

「正確にお願いします」

「それは無理! もう、ホットコーヒーでいい!」

「俺はアイスコーヒーでいいや」

「かしこまりました。少々お待ち下さい」

 カウンターに帰って来たマスターと目が合った。小さくガッツポーズをした。一度敗北した後に作られたこの新しいメニュー。言い切れた者はいない。Slowtimeで紅茶はあり得ないのだ。理由は知らない。

 マスターはホットコーヒーとアイスコーヒーを淹れると、大きなケーキと小さなケーキをお盆に乗せた。カウンターに小銭を置き、ライカを首に下げて席を立った。マスターが小銭を見て「どうも」と言い、にっこり微笑みながら二人連れの方へ行った。

「本日はアイスコーヒーにはショートケーキ、ホットコーヒーにはチーズケーキが付いています」

「もしゅ!」

 何語? まぁそれは良い。諸君。Slowtimeにケーキセットはないのだよ。そう思いながら店を出ようとした。

「そっちにすればよかった。交換しよう!」

 甲高い声が聞こえてきて、また記憶の渦に巻き込まれそうになった。

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