第3話 【ゲーマー】の効果
「さて、取りあえず初戦闘といくか」
スキルはないが武器はある。
初心者用の長剣ではあるけど、ちゃんと攻撃能力はあるようだし取りあえずこれでいいや。
スキルに関しては、ゲーム内通貨で購入するものと、特定の条件を満たすことで獲得できるものがあるらしい。
まあ、その辺はおいおい厳選していくとしよう。
「初心者向けのバトルフィールドは……東側か」
街を出ると、そこには平原が広がっていた。
ワープポイントがあったので開放しておく。
ゲーム発売と同時にプレイし始めた勢は、もうこんな初心者フィールドで戦ってはいないので、プレーヤーの姿はまばらだ。
ひとまずあてもなく歩いてみる。
すると森の中へ続く一本道が出てきたので、試しに進んでみた。
ものの1分ほどで、初めてのモンスターが登場する。
「シャーーー」
ヘビのモンスターだ。
紫色の鱗からして、いかにも毒がありそうだな。
サイズとしてはそこまで大きくないけれど。
「シャーーー!」
ヘビが素早く首を伸ばして噛みついてくる。
「おっと、危ねえ危ねえ」
他にもVRMMOをやっているせいで、作りたてのキャラはやはり動きが鈍く感じる。というより実際に鈍い。
ただ、戦闘時の体の動かし方は分かっているから……
「あらよっと」
ヘビの後ろに回り込み、初期装備の長剣を振るう。
クリティカルが発生し、ヘビの体は光となって消え去った。
――スキル【斬撃】Lv.1を獲得しました。
――スキル【先制攻撃】Lv.1を獲得しました。
「お、スキルだ。効果は……」
【斬撃】Lv.1/10
効果:攻撃対象にATAの103%のダメージ。(刃物系武器を使用時のみ発動可能)
【先制攻撃】Lv.1/10
効果:攻撃対象から一度も攻撃を受けていないと、一度目に対象へ与えるダメージが2%アップ。
なるほど。
お世辞にも強いとは言えないスキルだけど、無いに越したことはない。
レベルが上がればダメージ量も増加するだろうしな。
「さてさて、どんどんレベル上げるぞ」
俺は長剣片手に、意気揚々と道を進み始めた。
「ふぅ……今日はこれくらいにしとくか」
現実でのご飯休憩を挟みつつ、東側のマップの半分くらいは周り終えた。
今日はログアウトして、残った東側は明日にまわす。
どうせ学校もない。バイトのシフトも入ってない。俺は自由だ。
「だいぶレベルもステータスも伸びたな」
ユータ
Lv.6
ATA 56
DEF 56
AGI 56
DEX 33
LUC 49
HP 150
《スキル》
【斬撃】Lv.2 【先制攻撃】Lv.2 【毒耐性・小】Lv.1
《装備》
セット:なし
頭部:なし
胸腹部:なし
腕部:なし
右手:初心者用長剣
左手;なし
脚部:なし
足部:なし
その他:なし
モンスターからドロップしたアイテムを売ればお金が手に入る。
それを使えば新しい装備を買うことが出来るだろう。
「とりまログアウトしよ」
俺はウィンドウを呼び出すと、ログアウトを選択して現実世界に帰ってきた。
そういえばキャラメイクの時、『SoDA』と連携とか言ってたよな。
あんまり期待はしてないけど、何がどうなったか見てみるか。
十分に充電されたスマホを取って『SoDA』を開く。
次の瞬間、俺は驚きのあまりスマホを落とすかと思った。
「何だこれ……何で……」
画面に表示されるステータスの各項目。
つい数時間前まで「-」が並んでいたそれではない。
安達優太
Lv.6
ATA 56
DEF 56
AGI 56
DEX 33
LUC 49
DEP 150
《スキル》
【ゲーマー】 【斬撃】Lv.2 【先制攻撃】Lv.2 【毒耐性・小】Lv.1
《装備》
セット:なし
頭部:なし
胸腹部:なし
腕部:なし
右手:初心者用長剣
左手;なし
脚部:なし
足部:なし
その他:なし
これは……さっきまでプレイしていた『ワールドホライズン・オンライン』のユータと同じステータスだ。
HPがDEPに変換されている以外、ステータスはそっくりそのまま。
スキルも【ゲーマー】以外のものが追加されている。
「もしかして……」
スキル欄にある【ゲーマー】の文字が光っている。
震える手でそれをタップすると、説明が表示された。
【ゲーマー】
効果:任意のゲームにおける所持者のアバターと、現実世界における所持者自身のステータスをリンクさせる。
「つまり……任意のゲーム、『ワールドホライズン・オンライン』のユータを強くすればするほど、探索者としての安達優太が強くなるってことか!?逆に安達優太が強くなればゲームのユータも強くなる!?」
どうする?安達優太。
もし探索者になれば、ゲームで培ったスキルをそのままお金稼ぎに利用できる。
いや、それ以上にゲーマーとして、現実世界でゲームの技が使えるというのは大興奮ものだ。
「ちょっとリベンジしてみるか……」
俺は上着を手に取り、自分の部屋を飛び出した。
時刻はすでに午後10時。
こんな時間に俺が出かけるとは何事だと、両親が驚いて玄関へ出てくる。
「ど、どうしたの優太?」
「ちょっと出かけてくる」
「そ、そう。コンビニのバイトも始めて、外に出てくれるのも嬉しいんだけど……」
母さんは父さんと顔を見合わせてから、おずおずと口を開いた。
「その髪色は……どうしたの?」
「え?」
何のことかと玄関の鏡に映る自分の姿を見る。
そこにいたのは安達優太というよりユータだった。
「青くなってる……」
そして。
「身長が伸びてる!」
複雑なガッツポーズと共に、俺は近くのダンジョンへと駆け出した。