第11話 ユータとアオバ
時間通りにゲームにログインし、『始まりの街』で待つこと数分。
現実の青葉とそっくりな見た目のプレイヤーが現われた。
「よう。えーと、プレイヤー名は何にしたんだ?」
「シンプルにアオバ」
「アオバか。俺はユータにしてる」
「りょーかい」
例え現実で知り合いだとしても、ゲーム内ではプレイヤー名で呼び合うのがマナーだ。
とはいっても、俺たちは現実の名前と発音が変わらないのだが。
「とりあえず、フレなろ」
「オッケー。ステータス見てもいいか?」
「もち」
ステータスはゲーム内における重要な個人情報だ。
他プレイヤーのステータスを閲覧するには、そのプレイヤーとフレンドになる必要がある。
アオバ
Lv.1
ATA 50
DEF 40
AGI 44
DEX 30
LUC 36
HP 100
《スキル》
なし
《装備》
セット:なし
頭部:なし
胸腹部:なし
腕部:なし
右手:初心者用大鎌
左手;なし
脚部:なし
足部:なし
その他:なし
「武器はやっぱ大鎌なんだな」
「何だかんだで使い慣れてっからね。でも見た目も全く違うし、AOBって気づく人はいないっしょ」
「そうだな。一応、今日の俺はゲーム内のダンジョンに行くつもりだったんだけど……」
「いいじゃん。行こ行こ」
「いや、でも少しはレベリングした方がいいだろ?」
「分かってないねー。レベル1の状態でダンジョンを攻略したら、何か隠しイベントが起きるかもしんないじゃん」
「……そもそも戦えないだろ」
「ユータとパーティー組んで、ユータが攻略してくれりゃいいじゃん。結果は全部、パーティーメンバーのものなんだし」
「人任せかよ!」
「ナイスツッコミー」
手を叩いて笑うアオバは心底楽しそうに見えた。
誰かと一緒にゲームをするのが楽しくて仕方ないという風に見える。
もしかしたら、ただの俺のおごりなのかもしれないけど。
「仕方ない。とりあえず行ってみるか」
「オッケー。あ、ちょま、回復アイテムだけ買わして。流れ弾で死んだら最悪だから」
「あくまでも戦う気はねえのな」
「アイテムショップへレッツゴー!」
だめだ、聞いてねえ。
お金はキャラメイクの時点である程度配布されている。
安いポーションだったら2、3個は買えるだろう。
俺は歩き始めたアオバの背を慌てて追いかけた。
ポーションを買い、クロノの言っていた隠しダンジョンを探しに北部エリアへ。
森の中を歩いていると、例によって宝箱が出てきた。
ダミーがあることを知らないアオバは、意気揚々と宝箱へ近づいていく。
「ラッキー。お宝お宝……ってきゃっ!」
案の定、噛みつき花が飛び出してくる。
瞬時に攻撃を回避したのはさすがだけど。
「お前、意外とかわいい悲鳴上げんのな」
「……るさいっ!」
顔を赤くしてそっぽを向くアオバ。
俺は剣を振りかぶり、噛みつき花を切断する。
箱の中に残ったアイテムは……『嚙みつき花のタネ』かぁ。
「アオバ、プレゼント」
「何これ」
「タネだよ。そいつを植えると、さっきのパックンフ●ワーみたいなのが生えてくる」
「いらなっ」
「宝箱にはダミーが結構あるから、開ける時は慎重にな」
「早く言えっての」
悪態をつくアオバの顔は、まだほんのり赤いように見えた。
隠しダンジョンに関しては、北部にあるという情報しかない。
ひとえに北部エリアと言ってもかなり広いので、しらみつぶしに歩き回っていたらえぐい時間がかかる。
おまけにアオバがレベル1でダンジョンをクリアにこだわるせいで、一向に野良のモンスターと戦おうとしない。
ただただ、俺のEXPだけがたまっていく。
「ねえ、さすがに当てがなさすぎね?マップ見てさー、ある程度の見当をつけようよ」
1時間ほど歩いたところで、アオバがそんな声を上げた。
俺も同意だったので、マップを見て怪しいところをピックアップしていく。
結果、全部で4つの地点に的を絞った。
近くにある洞窟、一際目立つ大木の近辺、ちょうど北部エリアの中央にある花畑、そして最北端にある滝だ。
「効率よく回るとしたら……洞窟、花畑、大木、滝の順番が良さそうだな」
「りょりょりょー。まずは洞窟からね」
2分ほどで目的の洞窟にたどり着く。
崖のふもとにぽっかりと開いた黒い穴に、2人並んで入っていった。
洞窟内の空気はひんやりとしていて、かなり薄暗い。
灯りは壁のところどころに付けられた松明なのだが、炎は不安定に揺らぐため、現実のダンジョンよりも暗く感じた。
やや下り気味の道を慎重に歩く。
明らかに何かありそうなのに、1体もモンスターが出てこないというのが、逆に不気味だ。
結局5分ほど歩き、一度の戦闘もないまま洞窟の最奥へとたどり着いた。
ただの行き止まりではなく、木の扉がつけられている。
「これが隠しダンジョン……?」
「いやー、ないっしょ」
「だよな」
普通、ゲームで洞窟があったら入ってみようってなるだろう。
そしてただ洞窟の中を進んでいけば、初心者だろうと上級者だろうとこの扉へたどり着けるのだ。
何せ1体もモンスターが出てこないんだから。
そう考えると、これがクロノの言っていた隠しダンジョンである可能性はかなり低い。
「ま、せっかくだから入ってみっか」
アオバはためらいなく扉を押し開ける。
その先にモンスターがいたとして、戦うのは俺なんだけどなぁ。
「あー、モンスターだわ」
アオバの言う通り、そこには巨大なクモ型のモンスターがいた。
明らかにこのゲームで見た中で一番でかい。
体の上には「BOSS キングスパイダーLv.20」という表示がある。
紫と緑の毒々しい配色。いかにも毒グモって感じだな。
「任せたー」
アオバは早々に壁へと寄りかかっている。
うん、まあ、こうなりますよねー。