第10話 タッグ組まね?
俺が簡単に【ゲーマー】の説明をすると、青葉は目を大きく見開いた。
「やばくね?現実とゲームの世界がリンクって……え?やばくね?」
「【電脳処刑人】もやばいけどな。【ゲーマー】は所持者の俺もやばいと思う」
「ゲームでレベルアップすれば、現実でもレベルアップするってことだよね?」
「その逆もな」
「え、ちょ待って。『WHO』とリンクしてるんだよね?」
「そうだけど?」
「えっと……」
青葉はスマホを開き、素早く指を動かし始める。
何かを検索しているようだ。
「うわ……マジか……」
「どうした?」
「これ」
青葉が見せてくれたスマホの画面には、何やら細かい数字がびっしりと書かれた表が映されていた。
細かすぎて目がちかちかする。
「何だこれ」
「ダンジョンのレベルアップ関数だよ。このレベルになるにはこれくらいのEXPが必要で、それを稼ぐにはどれくらいかかるっつー予測値。あのダンジョンの声ってさ、細かくEXPをいくつ獲得したって教えてくれないじゃん?行動パターンも人によって違うし。だからあくまでも予測値なんだけど」
「数字が多くて頭が痛くなるな。で、これがどうしたんだ?」
「もう一個、これは『WHO』の奴ね。こっちも行動パターンに若干の差があるから予測値なんだけど」
もう一度見せてくれた画面にも数字がびっしり。
俺には何がなんだかよく分からない。
「つまり……どういうことだ?」
「現実世界より『WHO』の方がレベルが上がりやすいんだよ。ダンジョンを10時間探索するのと、ゲームを10時間プレイするのだったら、ゲームやってた方が強くなれる。要はさ、優太は普通の探索者よりかなり速いスピードでレベルアップできるってこと」
「マジで?」
「マジマジ。え?マジ最強じゃん」
「言われてみると……思っていた以上にえぐいスキルみたいだな」
ゲームの世界で疲れることなくレベルアップして、現実世界のダンジョンを攻略する。
お金ももらえるし、ゲーマーの敵である運動不足も解消できる。
本当に【ゲーマー】はえぐいスキルだ。
「これから、探索者とゲーマーの二刀流でやっていくんしょ?」
「多分。まだちゃんとダンジョンを攻略したのは1回だけだけど、それなりに楽しかったし」
「1回しか攻略してないのにレベル12とかウケるんだけど」
青葉は手を叩いて笑った。
やっぱり彼女の“死神”みたいな姿なんて想像できないな。
「ねえ、アタシとタッグ組まね?」
「タッグ?」
「そう。現実世界では、アタシがダンジョン攻略のコツを教えるよ。そのうちレベルは抜かれそうだけど。だからさ、一緒に『WHO』をプレイしてくれない?」
「コツを教えてもらえるのはありがたいな。でも俺も『WHO』は始めたばっかで、コツもつかみきれてないぞ?」
「いいんだよ。アタシ、誰かとゲームしたことないからさ。優太がやってくれるなら、それだけで嬉しい」
「それなら喜んで。明日……って日付変わってんのな」
気が付けば午前1時。
ゲーマーたる者、全く眠気に襲われたりはしないが、この時間に女子と2人きりというのはいささか不純な気もした。
「今日のお昼12時くらいからやるけど、一緒にやるか?」
「やる!」
「オッケー。キャラメイク終わったら広場に降り立つから、そこで待っててくれ」
「りょー。ふわ……何か眠気きた」
「一旦寝た方がいいな。俺も昼まで寝るわ」
「泊ってく?」
「謹んで遠慮する」
さすがにこれ以上は危険だ。
謎の青春イベントが発生しすぎて、脳がパニックを起こしてしまう。
俺は席を立って、自分の家へ帰ろうとした。
しかし青葉が呼び止める。
「待って。ラウィンだけ交換しとこ」
「ああ、そうだな」
連絡先を交換。
家族以外はいなかった連絡先に、初めて友達が追加された。
それも同じ学校の女子。人生というのはどう転ぶか分からない。
まあ、学校行ってないんだけど。
「それじゃ、お疲れ」
「はーいお疲れー。んじゃ、またゲームでね。楽しみにしてるわ」
「俺も楽しみにしてるわ」
「おやすみー」
「おやすみ」
部屋を出ると、少し冷たい風が頬を撫でた。
歩き始めた帰り道には人っ子一人いなくて、車さえも通らない。
ただ街灯だけが、暖色の光で道を照らし出している。
「タッグ……ね」
青葉の言葉を思い出し、自分でも呟いてみる。
引きこもり廃ゲーマーと廃ゲーマーギャル。
なかなか癖の強いタッグだな。
でもひょっとしたら。
【ゲーマー】と【電脳処刑人】のタッグはえぐい化学反応を生むかもしれない。
そして彼女がダンジョンと出会って変われたように、俺もひょっとしたら……。