お好み焼きと夏
☆5
・ユミが部に加入したことは、
水泳部にとっていい影響を与えた。
普段の練習で皆は他の部員の言動に、
配慮するようになったし、
竹崎先生も部長も、
優しい口調で話すようになり、
水泳の練習に柔らかく優しく元気で明るい、
健全な空気と指導が行き届いた。
恵三はもとより誠二もさなも、
叱り飛ばすような強い口調はせず、
ある程度かみ砕いて穏やかに、
対応するようになった。
練習終了後、部員四人とユミは、
仲良くプールの側のグラウンドで、
数十分談笑するようになった。
恵三にとってそれは新しい経験だった……
蒸すような夏の空気にグラウンドの草の匂い、
皆楽しそうに夏の一時に加入した、
美しく白く素直なユミとの時間を大事にした。
キラキラと笑う彼女、
他の部員もユミを大事に扱い、
恵三もその様子を眺め会話に参加し、
嬉しくて優しい気持ちになった。
談笑解散後、
竹崎先生とグラウウドを後にするユミに、
淡い恋を抱いた恵三は、
もっと会話をしたかったので、
話しかけた。
「お好み焼きって好き?」
他愛のないフレーズだったが、
ユミは思いのほかその話題に喰いついた。
「えっお好み焼き大好きだよ。
小学生の時とか、よく母が作ってくれて、
青のり、ソース、キャベツ、豚バラ、──
もの凄く美味しかったの今でも覚えてるし、
今ハッキリと思いだした☆!!!
アツアツのお好み焼き、
美味しかったなー☆
でも施設に入って、
あんまり食べる機会なくなって、
あー食べたくなってきちゃった☆
恵三君はお好み焼き、
食べに行きたいですか☆??」
恵三は何気なく言った一言が、
ユミからの楽しいお誘いを、
引き出したことに一瞬戸惑ったが、
嬉しく穏やかな日々の続く夏の日に、
むしろ気持ちに素直に答えようと、
恵三は元気に即答した☆
「ユミちゃん、自分も行きたいよ☆!!!
お好み焼き美味しいよね♪
お小遣いとかあんまりないけど、
自分もユミちゃんと一緒に、
お好み焼き食べてホクホクしたいです☆」
ユミは一瞬目を丸くして、
手のひらを顔の下で重ねて、優しく微笑むと、
「とってもいいです☆☆☆
親戚の竹崎先生に頼んで、部員全員で、
アツアツの鉄板で、皆でホクホクと、
会食を楽しむの、すっごく素敵だと思う☆!」
夏の暑い日中、恵三は気持ちは弾んだ。
ノリのいい竹崎先生は、
「ふーん、お好み焼き食べたいんだ。
いいよ☆楽しい提案だし、
よしっおごってあげる☆☆☆!!!
楽しい夏休みにしよう♪!」
竹崎先生が気前よく、約束して、
恵三の十二歳の夏は明るく盛り上がった。
報われなくても、この日々をずっと大切にしよう──
夏の日の特別な時間は、
昼も夜もなくキラキラと夢のように回った。
…………『続く』