かわいい幼馴染のスクール水着を俺は絶対に盗らないという自信がない。
「……萌衣、持ってきてやったぞ、コレ」
「わあっ、懐かしいね、へんたい!ブルマニアン仮面!!」
「こ、声が大きいっ! 萌衣、今は通勤ラッシュ時刻だぞ。
気を付けろよ、へんたい!って発音だけだと周りに変な目で見られるから」
近くを歩く他校の生徒達が驚いた表情で俺達を凝視していた。
「平気だよ、私達バカップルと思わせとけば♡」
えっ、カップル、俺と萌衣が?
「伸吾、なーに赤くなってんの」
「う、うるせえっ! 俺は常識人なの、公衆の面前でイチャイチャとか、
犬や猫じゃないんだから、バカップルなんて出来ねえよ……」
「あ~! 伸吾、ワンちゃんやネコちゃんに失礼だよ、動物は一定の時期しか、
仲良ししないんだから」
萌衣の動物談義が始まった、コイツは昔から無類の動物好きで、
特に犬が好きなんだよな、だけど可哀想なの小児喘息の気があって、
動物の毛でアレルギー反応が出るから、子供の頃にペットを飼うことが
出来なかったんだ、俺達の思い出の場所、神社の集会場に近所の猫がいても、
俺や姉貴が抱っこして可愛がるのを一人、遠巻きに見ていたんだ。
萌衣が一番動物が好きなのに……。
「……伸吾? どうしたの、黙り込んじゃって」
物思いに耽っていた俺を心配して顔を覗き込んでくれる萌衣。
「あ、ああ、何でもない、ほら早く鞄にしまえよ、ブルマニアン」
「ありがとう、こんなにキレイな本なんだ、伸吾って物持ちがイイね」
「これは当時の本じゃなく復刻版だからな、結構再評価されてるんだよ、
有名動画サイトで紹介されてカルト的な人気に火が付いたんだ」
「そうなんだ…… でも何だか嬉しいな、伸吾は覚えてる、
あの集会場で良くブルマニアンごっこしたよね」
「そうだな、俺がブルマニアンで、お前がメスガッキー役だったな、
よく電気あんまの刑喰らわされて、マジでアレが潰れるかと思ったよ」
「それは萌衣じゃなく、未来美お姉ちゃんだよ、メスガッキー役は」
姉貴にはSっ気があるのでメスガッキー役は適任だが、
じゃあ萌衣は何役だったんだろうか?
「私はスクミズキ役が多かったな、学校のスクール水着を着て
鬼ごっこもしたよね。」
萌衣が言っているスクミズキとは、当初、悪の組織カンポー学生服の
怪人だったが良心回路の発動によりブルマニアンの味方になるんだ。
ブルマニアンシリーズ屈指の神回、「敵か味方かスクミズキ、
プリンセスラインの美少女」は冠スポンサーの鬼ヤンマ学生服の
テコ入れも有り、スクール水着拡販の時期に合わせて放映された。
あの有名な特撮評論家の池田松軒氏も絶賛だった、
ブルマニアンに日本特撮界の意地を見た! ストーリーのうねりが
スクール水着の美少女に集約されていて、一本の詩的な作品としても
成立するとべた褒めだった、当時ガレージキットでもフィギュアが
発売されてたな、ジェネラルプロダクト製でメスガッキーとスクミズキ。
「萌衣のスクミズキ可愛かったよな、写真が残ってないのが残念だ」
俺は思い出に浸っていた、鮮烈に覚えているのは萌衣の着るスクール水着が、
現在の競泳水着と違い、旧型のタイプで最大の特徴はおへその下に、
水抜き穴があるんだ、通称プリンセスライン、その筋のマニアには
垂涎の代物だ、これを萌衣のような美少女が着たら破壊力は半端ない。
「伸吾、鼻の下が伸びてるよ、そんなに好きなら今度あの集会場で、
萌衣がスクール水着を着てあげよっか♡」
ええっ! 大人になった萌衣がスクミズキのコスプレ!!
俺はその萌えに耐えられるだろうか? 自信が無いな……。
「お馬鹿な話はこれくらいにして、今度の休みの予定空けといてね、
まずはデートの計画を立てましょう!」
「萌衣、本気かよ! 姉貴の口車に乗せられているなら、
俺は嫌だぜ、同情でデートに誘うとか……」
本当は叫びだしたいくらい嬉しいのに反対の態度を取ってしまった。
「……そんなんじゃないよ、萌衣がデートしたい気分なんだ、
伸吾は嫌なの、私と一緒じゃ」
……嫌なわけないだろ、俺は喉まで言葉が出かかった。
「あっ、もうこんな時間、私、陸上部に顔出さないといけないから、
伸吾、悪いけど先に行くね、……本当に楽しかったよ!」
陸上部のホープで本年度も期待の星だけに忙しそうだ、
最後まで一緒に登校出来なのは残念だけど仕方がないな。
気分を切り替えて、ゆっくりと今朝の幸せを噛みしめる。
「……香月」
あと少しで学校と言うところで突然、後ろから声を掛けられた。
一瞬、誰だか分からなかった、声の方向に振り向くとそこに立っていたのは……。
萌衣の親友、佐倉彩花だった、俺にブルマ泥棒の濡れ衣を着せた張本人だ。
いつもの勝ち気な態度がまったく感じられない、しおらしい表情で
こちらに目を合わせるのも躊躇していた。
「佐倉さん、もしかして俺を待っていてくれたの?」
無言でこくりと頷く彼女、その瞳には大粒の涙が浮かんでいた、
いまにも溢れ出してしまいそうだ……。
「佐倉さん、俺はもう気にしてないよ、だから涙を拭いて」
ポケットからハンカチを出して彼女に差し出す、一瞬戸惑いながらも、
佐倉さんは受け取ってくれた、今まで特に意識しなかったが、
かなりの美少女だ、クラスでは陽キャグループの筆頭みたいな女の子、
ぱっちりとした可愛いつり目で、栗色の長い髪をポニーテールにしている、
どちらかと言えばギャル系で俺みたいな陰キャとは接点がなかった。
そんな彼女が人目もはばからず涙を見せている、
本当に反省していることがひしひしと伝わってきた。
「もういいよ、佐倉さんは充分反省したんだから、
それに萌衣のことが好きすぎて、俺が邪魔に感じたからやったんだよね?
俺も似たような気持ちになるから、佐倉さんを一方的に攻められないよ……」
偽らざる思いだった、俺が佐倉さんの立場だったら同じことをしただろう。
「違うの!! それだけじゃない……」
ハンカチで頬の涙を拭いながら、
彼女が俺に告げた言葉は意外な内容だった。
「……佐倉さん、違うって?」
「確かに萌衣は親友で大好きなのは嘘じゃない、だけとブルマ泥棒の罪を、
香月になすり付けた本当の理由はそれだけじゃない!!」
彼女が抱えていた気持ちを吐露する、普段の勝気な態度はなりを潜めた。
渡した小さなハンカチでは拭えないほどの涙が頬のラインから
細いあごにかけて流れ落ちるさまを
俺はたた見つめるしか出来なかった……。
「私が本当に嫉妬したのは香月じゃなく、あなたの隣に居た萌衣なの!!」
何故、神様は運命の悪戯を用意するのか?
俺がもしヒーローなら一番正しい答えはどれなんだろう、
教えてくれないか、ブルマニアン仮面……
次回に続く。
数ある作品の中からご一読頂き、誠にありがとうございます。
「面白かった!」
と思ったら、
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つでも構いません。
ブックマークも頂けたら嬉しいです!
作者のモチベーションアップになりますので何卒お願いしますm(__)m