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交流大会 ~魔物討伐競技~

異世界の体操着って、想像できます?

 わたしは日々、攻略対象との親密度を上げるようローズ様にせっつかれているが、ちっとも上がる気がしないのは、もはや神様の人選ミスだと信じたい今日この頃。

 半年経って、季節は秋なのに、親密度もイベント進行度も上がらない。

 いや、新しい魔法学の先生との出会いはあったよ。覚えているだろうか。わたしが授業中に居眠りしそうになったら、スナイパーのように魔法を打ち込んだ、あのサディスト教師である。それ以来ほぼ接触ないけどね。

 一応、殿下やら騎士様やら生徒会長様やらの親密度は「知り合い」程度にはなった。ただ、どうも初見のイメージが奇天烈だったようで、珍獣系の「知り合い」のポジションになった気がする。挨拶する度に「騒ぎを起こすなよ」と言われるんだ。

 それに、若干パシられている。雑用とかがあると、「ちょうどいい、お前ちょっとこっち来い」的な。

 知り合いの中でも最も哀しい「知り合い」だ。

 あ、そうそう。あの仔猫は無事引き取り手が見つかった。何か学園長が飼うとかで、たまに学園にも連れてきているらしい。っていうか、グレンの人脈ってどうなってるの?



 さて、秋と言えば運動の秋。そう、日本で言えば体育祭に当たる催しがある。

 そこは異世界風味なので、交流大会と呼ばれる魔法や剣の競技大会的なものだ。

 学年対抗で、それぞれの競技に数名の代表を選出して、総合ポイントで優勝を決めるようだ。

 この大会は外部の見学が許されていて、ここで活躍すると、魔術師団や騎士団、研究所や神殿関係からお誘いが掛かるらしい。スカウトマンの目に留まるよう、なかなか真剣な勝負が展開されて、学校行事と侮るなかれという規模になるようだ。

 で、まずはその学年代表を選ぶ必要があるわけで、この時期は普段の授業がクラス別ではなく合同で行われることが多かった。

 端的に言うと、わたしは魔物を倒す競技に出る。あんまり目立たないようにチート力は使ってないんだけど、まあ光魔法Lv.MAXだからね。

 浄化する魔物は、魔法で作られた人工魔物で、ゴーレムとかいうヤツなので安全らしいよ。

 ローズ様はどれだけ緻密な魔力操作が出来るかという競技に出て、殿下は馬術競技と、剣と魔法を使った総合対戦競技に出る。

 ちなみにサラは少し癒しの力があるのでこの大会の救護係で、わたしも競技よりそっちが良かったので立候補したら、速攻で却下された。おかしいな、治癒魔法Lv.5なんだけど。

 グレンは殿下と同じ総合対戦競技に出る。いつの間にか学年代表になる実力を付けたみたいだ。あとでサラと応援しに行こう。

 上の学年では、二年のオーランド様が剣術と馬術、三年のリード様が魔術操作とわたしと同じ魔物討伐競技に出る。

 生徒会も運営を手伝うのに、殿下もリード様も何足もわらじを履いて大変なことだ。

 ご都合展開でお分かりかと思うが、攻略対象はカッコいい場面を増やすため、二種の競技に参加する。きっと女の子で溢れて、黄色い声援が乱れ飛ぶんだろうな。


 で、交流大会当日。

 各競技場は、広い学園の敷地のあちこちに散らばっているため、推しが複数いる人は、応援のために会場間を奔走している。喧騒が偏って聞こえるのは、おそらく攻略対象がいろんな場所で活躍しているためだと思われる。

 そして、ここ、魔物討伐競技会場は現在一時競技中止となっていた。

 何故って?それは、わたしが思わず初戦で光魔法を遠慮なく駆使し、ゴーレムごと一部会場を吹っ飛ばしたせいである。

 釈明させてもらおう。

 初戦だから他の出場者の競技を見てないから知らないが、わたしの目の前には突然百近いゴーレムが現れたのだ。審判の教師陣が慌てふためいていたから、きっと想定外の事態だったのだろうけど、それを知らないわたしは、殲滅することが得点になると聞いていたので、頑張って掃討したんだ。なんか、会場外に出ようとするゴーレムもいたから、安全のために一気に魔法を放ったため、競技場の結界やら地面やらがぼっこぼこになってしまったのです。

 まったくもって不可抗力の事態なのですが、先生たちに怒られている今の状況の理不尽さに、ただただ耐えているところです。

「何か、凄い音がしたんだが、何があった?」

 別会場にいたはずの王太子殿下や騎士様、ローズ様、救護にいたはずのサラまでこの会場にやってきた。で、王太子殿下の開口一番の問いかけに、誰もがわたしに視線を向ける。何故だ?

「まあ、ちょっとした問題が起こりまして、ゴーレムが暴走しました」

 そこで、同じ競技に参加予定だったリード様が説明をしてくださった。

「一大事ではないか」

「ええ。ただ、そこの脳筋娘が光魔法を遠慮なくぶっ放しまして事なきを得たんですが、代わりに会場がこんな目に」

「「「「ああ」」」」

 再び何故だ。全員が一致して頷くのは。っていうか、脳筋娘って、センパイ酷いです。

「やあ、ここにいたのか。アイリス君」

 そう言って駆け寄って来たのは、あの魔法学のサディスト教師である攻略対象のカミル先生だ。殿下とは違った長いブロンドを一つに束ねて眼鏡を掛けたおっとり系の美人だ。優し気で垂れ気味の目がセクスィだと女生徒から評判の先生だけど、魔法のことになるとちょっと箍が外れる傾向にある人だ。気軽に殺意を向けてくる。

「まだ原因は分からないが、君が殲滅してくれたおかげで、生徒に被害が出ずに済んだ。さっきは、君にも危険があることを注意するために怒ってしまったけど、改めて被害を抑えてくれたことに、教師陣からお礼を言うよ」

 眩しいほどの笑顔を振りまく先生。だけど、その笑顔をふと小悪魔的なものに変え、そっとわたしに近付くと、顔を寄せて囁いた。

「君の光魔法をもっと知りたいとずっと思っていたんだ。後で、実験に付き合ってもらいたいな。もし協力してくれないと、お仕置きしちゃうかも」

 わお。先生からいい匂いがする。そしてデンジャラスな匂いも。またの名を死臭という。

 それだけ言うと、先生はまた調査に戻っていった。男性陣が渋い顔をする中、わたしは即ローズ様に向き直って状況確認をする。

「……ローズ様、これって、先生との親密度が上がったということでしょうか」

「いえ、あれは、どちらかというと『実験動物』を見つけた、みたいな……?」

 ちょ、え?モルモット的な⁉乙女ゲーム的には新感覚だね!ミッドナイトな方向で、18禁ダイジョウブ⁉

「あれ、行かないとダメですかね?」

「……取って食われたりとか、死ぬようなことは、ないわ。……きっと」

 それは、断ったら死もあり得るってことですか⁉

 わたしが縋るように男性陣に目を向けると、サッと目を逸らされた。

 最後にサラに目を向けると、サラだけは慈愛に満ちた微笑みを浮かべていた。

「大丈夫よ、アイリス。先生は貴重な光魔法の使い手を簡単に死なせるようなことはないわ。それに断っても、きっと単位を貰えないくらいだから」

 全然安心できないインフォをありがとう。さすがサポート役。生命的な危機は免れても、学生的な死は不可避なことが分かった。ん?今、「簡単に死なせない」って言った?生命的な危機、免れてないね!

 もはや、全力で死を回避しつつ実験に参加し、速やかにおさらばするしかない。

 お通夜のようなわたしの空気に、取りあえず解散の運びとなった。

「そう言えば、この後のこの競技ってどうなるんでしょう」

 ふと思いついたことを聞くと、リード様が顎に手を掛けてポツリと言った。

「まあ、すぐに指示があると思うが、おそらく中止となって、得点は無しだろう。この後生徒会でも、手の空いた者は他の係に割り振って、運営のサポートをするようだろうな」

 リード様が殿下を見ると、殿下も頷いている。

「じゃあ、お前は救護係に編成だな」

 そう言って、オーランド様がわたしの仕事を勝手に決める。

「そうだな。治癒魔法を使えるし、私とオーランドが出る競技は怪我も多いから、一人でも救護は多い方がいい」

 殿下も賛同する。競技が無いなら別に暇になるからいいけど、この顎で使われる感がなんか嫌だな。まあ、身分が高い人たちだから、顎で使われるのは仕方ないんだけど。

「そうとなれば、俺の出番の時は、ちゃんと応援しろよ」

 そう言ってオーランド様は、わたしの頭に肘を置いた。肘置きに丁度いい高さにわたしの頭があると前に言われた。なんか、もうわたしを令嬢として扱わないことにしたようだ。

「それなら、魔力操作にもおいで。私もローズ嬢も出るから」

 リード様がわたしの肩に手を置く。

「あら、いいわね。試合があなたと被ると思ったけど、それならわたくしを応援なさい」

 ローズ様がわたしの手を取りながら言うと、呆れたように殿下が口を挟む。

「アイリス嬢は、元々同じクラスのグレンの応援に、私のところの総合対戦競技に来る予定だっただろう。それに、オーランドもリードも学年が違うだろうが」

 殿下が「私の」を強調して言ったら、わたしに接触しているみんなの力が、なんか強くなった。お三方の圧力で、首と肩と手が痛いんですが。特に、首もげそうだし、手に爪食い込んでる!騎士も令嬢も少し加減しろ!

「あの……、時間の許す限り、皆さんの応援に寄せらせていただきます」

 わたしが無理やり言わされている感を出すと、サラがいい笑顔を向けた。

「ふふふ。アイリスって、頼りにされているのね」

 サラ。それは誤解なんだ。

 ヒロイン補正だか知らないが、わたしの治癒は怪我だけじゃなくて疲労も取れるらしい。

 代表選抜で一年合同の試合をしていたら、殿下が怪我をされて、その場にいた治癒魔法の使えるわたしが治したんだけど、その際殿下の慢性肩こり胃もたれ寝不足が一緒に解消されたようだ。16歳でおっさんのようなその症状もどうかと思うが、それが仲間内で広がり、リード様の眼精疲労や、オーランド様の訓練後のクールダウンとかに便利に使われた。ローズ様に至っては、肌荒れにもわたしの治癒魔法を所望なさる。

 葛根湯やビタミン剤みたいな扱いを受けるヒロインって。

 乙女ゲームって、こんなのだったかな?

 快晴の青空を見上げ、まだ上がり切らない太陽に、今日の日の長さを思うのだった。

慢性疲労、腰痛、肩こり。

この病を人類が克服できる日は来るのでしょうか。

1名はパンプアップのやりすぎが原因ですが。

ちなみに筋肉の成長は治癒魔法を掛けても元に戻らないよ!


また明日投稿します。

いつも閲覧ありがとうございます。

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