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悪役令嬢、襲来

本日の最後の投稿です。

悪役令嬢と言えば、ドリルですよね。

 わたしは前世が嘘のような活発な日々を過ごしていた。

 クラスではグレンのお陰で友達もたくさんでき、寮でもサラと平民の子を交えてお泊り会などもやるほど仲良くなった。

 わたしは並行して、体力づくりのために、毎日走り込みと腹筋、腕立て伏せを始めた。

 それにはグレンが付き合ってくれて、お互いいい筋肉が付いたと思う。

 授業の選択も、必須の魔法学以外は、限界が見えている光魔法(Lv.MAX)の座学をやるより身体を動かす方がいいと、剣術や護身術、馬術を中心にした。体力こそ30だったが、運動神経自体は悪くなくて、最初は剣を持ち上げるのが精いっぱいで「お前なんでこの授業取った?」と呆れかえられていたものが、徐々にものになっていった。

 また、この学園は、新入生は何らかの委員会か部活動に加入しなくてはならない。

 本当は農業部とかがあれば良かったんだけど、上流階級の子女が集うこの学園では、そんな泥臭い活動はなかったのだ。

 代わりに、花の鑑賞や簡単な世話をする園芸部に入った。馬術部は無いし、馬は素人には世話をさせてもらえないので、何かをお世話する活動はここしかなかったんだ。

 この部には貴族階級の女性しかいなかったので、実際に植物のお世話は学園の下働きの男性が行っていたが、日頃の筋トレの賜物か、わたしが肥料やりや花壇用のブロック積みなどの重労働をせっせとやるものだから、下働きの人の評判が良く、お嬢様たちからは変わり者のわたしを珍獣のような感じで可愛がってもらった。

 ここで、あの土木スキルが役に立った。蔓バラの誘引棚を作る時や、土づくりの時なんかに大活躍したのだ。土を耕したり、柵や塀を作ったりするのも、広く言えば土木だ。下手な農業スキルよりも便利かもしれないと気付いた。さすが神様!

 そんな感じで、上腕二頭筋の成長も著しく、そろそろ腹筋も割れるのでは?と期待していたある日の事だった。

 放課後、別棟の園芸部に行こうとエントランスを出ると、目の覚めるような真紅が眼前に広がった。

「ちょっと、あなた。少しわたくしにお付き合いくださらない?」

 確認の形をとっているけど、それは命令だった。その声の主を見ると、わたしはピンと来てしまった。

『悪役令嬢、来たーーー!』

 腰まで届く真紅の髪はドリルのような螺旋を描き、十代とは思えない豊かな胸部と細い腰というけしからんスタイル、冷たい顔立ちだがその際立った美貌、どこからどう見ても悪役令嬢だ。

「ごちそうさまです!」

「何が⁉」

 思わず訪れた眼福にお礼を言ってしまった。

「……いえ、こちらのことですのでお気になさらず」

「まあいいわ。ところであなた、ちょっと顔を貸してくださらない」

 おう。これはかの有名な、「体育館裏呼び出し」なるものか。いや、この学園には体育館は無いんだけれども。

 無言でツカツカと前を歩き出す悪役令嬢様に続き、わたしはちょっとしたワクワク感で胸を躍らせながら背中を追った。彼女は我が園芸部がある別棟の裏側へわたしを引き入れると、何故かわたしに壁ドンをしてきた。

 この時間は確かに誰も来ない場所だけど、もし見られたらあらぬ疑いを掛けられそうな態勢に、わたしは二種類のドキドキを感じた。だって、悪役令嬢様はとてもお美しい。

「あなた、一年のアイリスね」

「はい」

「あなた、転生ヒロインでしょ?」

「……は?」

「耳が悪いのかしら。意味分かるでしょ?」

 単語はちゃんと拾えてますが、いや、それを真正面から言われると思っていなかったので、自分の耳を疑ったんです。わたしがコクコクと首を縦に振ったのを見て、悪役令嬢様が盛大に顔を顰めたのだ。

「あなた、ちゃんと前世の記憶があるようね。それなら、何故攻略対象とのイベントをこなさないのよ!」

「ええ、それってぶっちゃけていいやつなんですか⁉」

「あなたがちゃんと自分の役割を果たしていれば、わたくしだってこんなこと言いませんわよ!」

 言葉遣いもちゃんとなりきっている。凄い。

 ではなくて、悪役令嬢様は、どうやら悪役系ヒロインを期待されていたようで、わたしに「何故王太子を誘惑しない」「生徒会長とお近づきにならないなんて」「騎士団長候補とはいちゃいちゃすべき」「魔法学の教師と懇ろにおなりなさい」「来年はわたくしの弟と親密になるのよ」とたくさんの攻略法をまくし立てられました。

 それで大体、あの伏せ文字になっている攻略対象が分かった。なるほど!

「なるほど、じゃないのよ!あなたが暗躍しないせいで、わたくしのイベントが全然起きないじゃないのよ!」

 タジタジとなるわたしに、令嬢様は胸ぐらを掴まんばかりに詰め寄った。

「ええと、よく分からないのですが、そのイベントって何ですか?どうして、あなた様、……ええと」

「ローズよ」

 赤毛にローズ。安易!でもピッタリ。名前までなんて華やかなんでしょう。

「ああ、ローズ様、は詳しくご存じなんですか?」

 ローズ様は大きな目を更に大きく見開くと、呆れたように盛大なため息をついた。

「あなた、サポート役に聞く前に、ステータス画面見たことないの?」

 ステータス画面……。あれか。

「見たことはあります。入学式の日の朝に見たきりですが」

「はあ⁉初日って、しかも朝って!あれは毎日見るものでしょうが!」

 いやぁ、終始腹から声が出てお元気だ。

「あの画面のイベント発生率の名前をタップすると、発生スキルとイベント名が出るのよ。だから大体の行事名や季節や場所で発生イベは分かるようになっているの!」

 ほう、あの画面にそんな機能が。わたしは自分のスキルで頭がいっぱいだったから、そんなイベントなんて「へえ」くらいにしか見てなかったなぁ。

 わたしが言い訳的なことを言うと、またため息をついて、「試しに開けてみなさい」とご命令あそばされた。

 って、どうやって画面展開するんだ?

「バカね!『ステータス』って言ってごらんなさい」

 ちょっと痛い感じで恥ずかしかったが、蚊の鳴くような小さな声で「ステータス」と言ってみた。ステータスさんは聞こえないふりもせず、ピコンと音を鳴らして展開してくれた。

「はい、どうぞ」

「はあ?あのね、ステータス画面は本人にしか見れないのよ。ホントあなた、疑似転生舐めてるの?読み上げなさい」

 いやぁ、令嬢の命令が板についているなぁ。

 で、わたしはステータスを読んでみた。


『ステータス

 名前 アイリス・メイフラワー 16歳(+1)

 知能50 体力60(+30) 魅力50(-10) センス40 魔力70 器用さ70(+10) 運80

 ◇取得スキル

  光魔法Lv.MAX 治癒魔法Lv.5 調理Lv.3 俊足Lv.6 土木Lv.5(+2)

 ◇親密度

  Newアルフレド 2% △△△△ 0% Newリード 2% □□□□ 0% ……0%

 ◇アイテム

  所持品無し

 ◇イベント発生率

  Newアルフレド 2% △△△△ 0% Newリード 2% □□□□ 0% ……0%』


「やった!体力が60になった。それと、雨の月でわたしは16歳になりました。ハッ、あと土木スキルがLv.5に!」

「何で、ヒロインに土木スキルなんて付いているのよ!」

「おそらく、転生の時に神様が付けてくれたものかと……」

「そんなギフトあってたまるか!しかも何で魅力を下げてるのよ⁉」

 ちょっと口調が乱れてきた。

「あなた一体何を目指しているの」

「えと、スローライフ筋肉系モブヒロイン?」

「乙女ゲーム舐めてんのか‼」

 ローズ様が何か物を持っていたら、地面に叩きつけていただろう。二回目の「舐めてる」いただきました。

 でも、あのお兄さんは、モブ侍女とかモブ取り巻きとかがいるって言っていたから、モブヒロインがいてもいいんじゃないだろうか。

 そう抗議すると、「ヒロインだけはモブれる訳ないでしょ」とのこと。斬新だな、「モブれる」って。わたし、ローズ様の語彙とか掛け合い好きだなぁ。

 そんなやり取りをしたが、ふとローズ様は何かを思い出したようだった。

「違うわよ!肝心なのはそこじゃないわよ!友好度とイベ発生率を見なさい!」

 渋々わたしが目をやると、伏せてあった文字が開いていた。しかも「New」となっている。

「誰に何パーセント発生しているのか言ってごらんなさい」

「えっと、アルフレド様とリード様お二人で、それぞれ2パーセントです」

「はぁ!三ヵ月経って、たった二人でそれも2パーセント⁉それも最初の入学式のイベントだけじゃない。しかも普通にイベントをこなせば5パーセントは行くはずなのよ⁉」

 ローズ様が言うには、入学式の講堂でどちらかと目が合った後に、話を真剣に聞いていた方との出会いイベントがあるらしい。もしその二人をスルーしたとしても、掲示板の辺りで騎士団長候補の王太子の護衛騎士であるオーランドとの出会いがあるとか。

 それを聞くと、三ヵ月間も放置されていた「New」の文字が哀しく思えてきた。

「ああ、あの時はサラとおしゃべりが弾んで、それどころじゃなかったかも……」

「バカなの?何で攻略対象との出会いを潰して、サポート役と仲良くなってるのよ!」

 ある意味、ステータス画面さんに対しての罪悪感で、わたしは項垂れた。

 ごめん。ずっと放置していて。

「あのね、あなたの動きでわたくしの恋愛イベが潰れるものがあるの!あなたがちゃんとしてくれなくては、断罪イベからの逆ハールートが展開しないのよ!」

「ええ、それはわたしが破滅ルートになるじゃないですか」

「そうよ。全ては悪役令嬢を盛り立てるためのシナリオだもの」

「だって、あのお兄さんは好きなようにしていいって言ってましたよ?」

「黙らっしゃい!いい?あなたはちゃんとヒロインの役目を果たしなさい!」

 初めて「黙らっしゃい」って聞いた。それに何ていうか、ローズ様はプロなのかって思うほど意識が高い。

「ちゃんとあなたが役目を果たせば、わたくしがあなたを悪いようにはしないわ。断罪イベ後もちゃんとあなたが幸せになれるようにしてあげるし」

 ん?ちょっと優しい?

「そうとなれば、早速やるわよ」

「え?何を?」

 不思議に思って首を傾げるわたしに、ローズ様はまさに悪役令嬢を地で行く壮絶な微笑みを浮かべた。

「もちろん、出会いイベントを強制的に起こしに行くのよ」

「へ?」

 理解の追いつかないわたしの首根っこを摑まえると、ローズ様はその細いお体のどこにそんな力があるのか、わたしを引きずって歩き始めた。

「善は急げ!まずは殿下攻略から参りますわよ!」

 夏の空に、悪役令嬢様の「おーほほほほほ!」という高笑いがこだました

ガテン系ヒロイン。字面がしっくりこないですね。これがギャップ萌えというやつです。

あとステータス画面さんに、自分がした仕打ちとはいえ、不憫さを感じます。

悪役令嬢はテンションも血圧も高めですが、ヒロインにとっては大切なツッコミ役です。

ツッコミがいないと、ヒロインのボケが野ざらしのままになります。


さて、攻略ターゲットにされた殿下の命運やいかに……。


という訳で、本日の投稿はここまでです。

次話は明日また投稿します。

お楽しみに~。

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