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チュートリアルはありませんか?

本日2話目です。

ステータス画面でどう遊ぶか、それが悩みどころです。

 わたしが目を開けると、凄い情報量が頭の中に流れ込んできた。

 剣と魔法のある世界で、ここはミッドランドと呼ばれる国だ。

 王政の国で、貴族制度もあり、ある程度の身分差が存在していた。

 雰囲気は十九世紀のヨーロッパを少し便利にしたくらい。列車はあるけど自動車はほとんど普及していないので、移動は馬車が主流。でも、便利な魔法や魔物系の動物がいることで、現代と遜色のない生活水準だった。

 何といっても、熱いお湯の出るお風呂と水洗トイレが完備されている。

 ここ大事。とっても大事!

 そんなミッドランドは、教育制度も進んでいるが、特に国の優秀な人材を育てるための王立学園は、完全な実力主義で、身分差を問わずに能力で入学が出来た。学費や寮生活自体は国費で賄われるので、平民でもちゃんと学べるシステムのようだ。もちろん身分の高い人は、それなりの金額を払って特別棟と呼ばれる寮を使えるし、通いでもいいらしい。侍女も護衛も連れてこれるから、ヒロインが絡まなくてもストーリーが個別に進む素材がある。

 そしてお決まりのごとく、高い教育内容を誇り、隣国からも王族やら高位貴族とかが留学してくるようだ。隣国は北の国をハイランド、南の国をローランドというらしい。何か、神様たち国名設定とかめんどくさかったのかな?まあ、いいけど。

 学園は、日本人の感覚に合わせたのか分からないが、春から一年が始まり、三年で卒業。生徒会や委員会があって、文化祭や林間学校的なものもある。さすが乙女ゲームだけあって、イベントが盛りだくさんっぽい。制服もあって、お金持ちでも身分が高くても、授業時間は必ずこの制服を着なくてはならない決まりだ。まさに日本の高校と同じ感覚だ。

 そして、肝心のわたしの情報だ。

 わたしの名前は、アイリス・メイフラワー。花だらけの名前だ。ヒロインぽいとは思うけど、まあフローラとかよりはいいかな。

 設定では、王都の下町に母と二人で暮らしていたが、十四歳のある日、父だと名乗る男爵が迎えに来て、実子として貴族に迎え入れられた。母がメイドをしていた時にお手付きとなったけど、正妻に追い出されてひっそりと下町の実家に戻り、アイリスを生んだらしい。

 アイリスは、下町で天真爛漫に育ったが、珍しい光属性の魔力を持っていて、それを探り当てた男爵が、是が非でもとアイリスを引き取ったのだ。男爵家は成り上がりで、お金は持っているものの格式が無いため、娘のアイリスを使って上位貴族との繋がりを持とうとして引き取ったらしい。

 いや、ホント設定が王道すぎるんですが、神様ってめんどくさがりなのか?

 しかも天真爛漫設定って、何かわたしにはハードルが高いんですけど。あと、成り上がり貴族とか、何気なく破滅ルート歩みやすい設定だ。まあ、そこは緩くやっていこうと思う。

 で、わたしが目覚めたのは、一人部屋の寮室で、入学式の朝だ。

 起き上がると同時に、ピコン、とどこからか音が聞こえてきて、目の前に半透明のホログラムのような画面が展開する。


『ステータス

 名前 アイリス・メイフラワー 15歳

 知能50 体力30 魅力60 センス40 魔力70 器用さ60 運80

 ◇取得スキル

  光魔法Lv.MAX 治癒魔法Lv.5 調理Lv.3 俊足Lv.6 土木Lv.3

 ◇親密度

  **** 0% △△△△ 0% 〇〇〇〇 0% □□□□ 0% ……0%

 ◇アイテム

  所持品無し

 ◇イベント発生率

  **** 0% △△△△ 0% 〇〇〇〇 0% □□□□ 0% ……0%』


 パラメータが出てきた。能力値は50が平均で上限は無いらしい。スキルは10が上限でMAXとなり、親密度は出会った男子との仲の良さを表すようだ。親密度の記号の部分は、恐らく相手の名前で、出会って初めて開示されるようだ。恐らく攻略対象とされる人だけが表示されていると思われる。

 さすが乙女ゲームのヒロインだ。光魔法MAXだし、癒しの力まである。そして、魅力度、魔力が高い。特に運が異常に高いのが逆に怖い。でも、体力少な!頭フツー!

 ……ああ、どうしよう、ツッコんだ方がいいのかな。

 スキルの「調理」は分かる。美味しいごはんを作る、女子力の必須スキルだもんね。

 その次あたりからおかしい単語が並んでる。

「俊足」と「土木」って見える。しかも「土木」は「料理」と同レベルだし、「俊足」に至っては何気に高レベルだ。Lv.6って言ったら、100メートル10秒台らしい。男子日本代表クラスだな。「土木」のLv.3は、簡単な小屋が作れます、だそうだ。低いレベルでも小屋が建てられるって……。

 ああ、そう言えば、お兄さんがスキルを一つプレゼントしてくれると言っていたっけ。「俊足」と「土木」どっちだろう。体力が30なのを見ると、恐らくギフトは「土木」かな?

 しかし、何故に「土木」?

 それにしても、自前のスキルで体力が少ないのに「俊足」がLv.6って、男爵に引き取られるまでの「アイリス」って何をやっていたのだろうか。「土木」より謎だ。

 何故分かるかと言うと、画面のスキル名称の所をタッチしたら説明が出た。なるほど、こうやって使うのか。

 いろいろ言いたいことはあったが、取りあえず今日は入学式らしいので、身支度をしようと起きあがった。

 洗面台で初めて自分の姿を確認したが、ちょっと「うわぁ」となった。

 髪はふんわりと緩く波打つピンクブロンドで肩口くらいの長さ、透き通る真珠のような白い肌に少しだけそばかすが散っていて、少し垂れ気味の大きな目は瑠璃色で虹彩を金の輪が縁どっている。ぽってりとした桜色の唇はプルプルしていて、小振りな鼻は少しだけ上を向いている。完璧ではないけれど、隙があるところに何とも言えない魅力があった。

 前世とは似ても似つかない美少女が鏡の前にいた。

 わたしは鏡の前でがっくりと項垂れた。嬉しくない事は無いが、もうちょっと平凡な感じが良かった。

 なってしまったものは仕方がないので、わたしは身支度をして「アイリス」としての一歩を踏み出すことにした。

 寮室から出ると、早速というか、感じの良い女子生徒がいた。アイリスより背が高くて明るい雰囲気のブルネットの髪の子で、彼女の頭の上にピコンと「サポートキャラ」とウィンドウが表示された。ご親切にどうも。

「おはよう。わたしは隣の部屋のサラ。同じ一年生だから仲良くしてね」

「あ、ありがとう。わたしはアイリス。よろしくね」

 思いっきりフレンドリーな様子に、わたしは少し面食らったけど、サラの言動は押しつけがましくない親切そのものだった。初対面なのにちょっと好きかも、と思う。

 ブルネットを上品に巻いて背中に流した姿は、「ザ・お嬢様」という感じだけど、偉ぶる訳でもなくて言動ははきはきしていて頭が良さそうだった。それに、ぶっ飛んだ色合い美少女のわたしと違い、整いつつ派手さの無い落ち着いた美人だった。ブルネットに茶色の瞳というのも好感度抜群。ある意味わたしの理想だ。

 一緒に朝食を食堂で食べ、その後入学式の行われる講堂へ向かった。NPCのはずなのに、サラはとても自然に話しをするし、とてもウィットに富んで楽しい会話だった。

 行動の前でふとサラが耳打ちした。

「もし気になる男性がいたら教えてね。わたし全力で応援する」

 おお、これぞサポートの鑑。でもね。

「それよりわたしは、サラと遊んだりおしゃべりしたりしたいな」

 そう言うと、サラはほんのり頬を染めて、小さく頷いた。

 講堂には既に人がたくさんおり、入り口などは厳重に騎士っぽい人が警備をしていた。軽鎧というのだろうか、シンプルな防具を付けたガタイのいい人たちは、わたしの目にはとてもカッコよく見える。一度でいいからわたしもあれを着てみたい。でもわたしの体力は平均以下だ。

 よし!まずこの学園生活は体力づくりから始めよう!

 心の中で拳を握って目標を掲げると、ザワザワと会場が賑やかになった。前を見ると、檀上に一人の銀髪の美青年が立った。女子生徒のゴクリと生唾を飲む音がそこかしこで聞こえる。

「見て、あの方は3年生の生徒会長で、現宰相様のご嫡男のリード様よ。卒業前から次期宰相としての未来が約束されている英才で、氷属性魔法で右に出る者はいない方よ。そして、あの銀髪と青い瞳の色もあって、『氷の貴公子』と呼ばれているわ」

 なるほど。わたしが分からない事項は、こうやってサポート役が事細かく解説してくれるのか。多分、サラと一緒にいれば、自分からどうこうせずとも必要情報は得られるようだ。

 それにしても、「氷の貴公子」かぁ。他の人もあんな中二病的なあだ名付けられてるのかなぁ。

 もしかして、話が進むと、わたしもその餌食に⁉ヒロインだもんなぁ。

 絶対にそれは阻止しなければ。

 二つ目の決意が固まったところで、生徒会長とやらの演説が終わった。上級生の代表として挨拶をしたようだ。

 ん?何だか、檀上の人と目が合った?

 いや、気のせいだろう。壇上からここまでは結構な距離があるから、そう感じただけだ。案の定、普通に話しの終わった生徒会長は、何の余韻も無く壇上を下りた。

 となると次は、新入生代表の挨拶だな。ラノベとかの流れだと、絶対に王族の誰かが入学してて、その人が挨拶するんだ。

 そして、わたしの予想は外れなかった。

 次に檀上に上がったのは、金髪の細身の美少年だった。その途端、割れんばかりの拍手が起こる。壇上の美少年がそっと右手を挙げると、その音はピタッと止まった。

 暗黙のルールで凄まじい統制が取れている様は、女性歌劇団に忠誠を誓う熱狂的おっかけか、アイドルのライブで当の推しすら見ずにオタ芸で応援するファンのようだ。

 檀上で美少年が話し始まると、また女性からため息がそこかしこで発生した。

「あの方は、この国の王太子でいらっしゃるアルフレド様よ。わたしたちと同じお年で、既に外交もなさって国政に参加されていらっしゃるの。魔術も剣術も一流でいらっしゃって、光属性を持つ稀有なお方で、金色の髪と金の瞳から『ミッドランドの黄金』と呼ばれているわ」

 はい来た。メインヒーローですね。しかも「ミッドランドの黄金」って。もうちょっと何か無かったのかな、中二病的な二つ名。

 わたしが空笑いをしながら壇上を見ていると、んん?また目が合った?

 いや、気のせいだな。

 そうして、聞いていなかったけど、多分素晴らしい王太子の演説が終わり、学園の理事長らしき人の訓辞を聞いて式典は終わりになった。この後はクラス分けが発表されるので、講堂から中庭の掲示板へ移動となる。ワクワクしてさっさとその場を後にした。

「え、そんなに急がなくても……」

 戸惑うサラを引き連れて足を運ぶと、クラス表が貼り出されていた。

 クラスはSからCまでの4クラスで、言わずもがなSクラスは王族や上位貴族、そのお付きの貴族子女の集まるクラスだ。身分差を問わないとはいっても、危機管理の面で言ったら下手な人間を王族の側に置くわけにもいかないし、はっきり言って、そんなクラスに入れられた平民は緊張と粗相をしないかという恐怖で地獄を見る。むしろ平民側に気を使った措置と言えた。

 そんな訳で、わたしはBクラスだ。平民上がりの新興男爵家にはそれなりにぴったりだと思う。残念なことに、サラは伯爵家のお嬢様ということで、お隣のAクラスだ。逆に伯爵家のお嬢様があんなに気さくでいいのかと思った。話し方も庶民と変わらないし、ここは乙女ゲーム特有の「恋愛イベント以外ゆるフワ設定」がいい仕事をしているのか。

 あらかじめ指定された席に就くと、窓際の一番後ろの席だった。主人公席だね。

「やあ、隣の席にこんな可愛い子がいるなんて、最初からついてるな」

 突然掛かった声に、びっくりして隣の席を見た。

 そこには、背は高いけどひょろっとした少年が、人の好い笑みを浮かべていた。そしてその頭上には「サポートキャラ」の文字が。重ね重ねご親切にどうも。

「初めまして、俺はグレン。平民だけどよろしくね」

 明るい茶色の髪に同じような茶色の瞳をした爽やか男子だ。日本にいたらイケメンの部類だろうけど、さっきまで演説をしていた美形の後に見るとホッとする。男の子らしく日に焼けた肌に、ニカッと笑った時の白い歯が好感度を上げた。

「こちらこそよろしく。わたしはアイリス」

「アイリスか。いい名前だね。俺の家が商売をしてて、この学園にも顔見知りがいるから、何かあったら相談してくれよ」

 これが男子バージョンのサポートの役割か。攻略対象の情報とかを漏らしてくれる役なんだ、と納得する。男の子の情報を女の子であるサラが持ってくるより、グレンが持ってきたほうが自然だもんね。

 サラが生活面のサポート、グレンが攻略対象との接触のサポートという訳だ。

 破滅ルートもあり得る疑似転生とは言っても、これはなかなかに悪くないスタートだ。

 よし!この調子で、まずは体力値を60まで上げるぞ!

 目指せ、スローライフ筋肉系モブヒロイン!

初っ端からメインヒーロー素通り。

フラグっぽいのも素通り。

改めて「乙女ゲームって何かね」とヒロインに問いたい。

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