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エピローグ ~コンティニュー~

本編完結です。

魚類注意報発令中。

どうぞお楽しみください。

「いい加減に、しなさぁーーい!」


 わたしの魔法は、会場に敷かれた二人の転生者の魔法を打ち砕いた。人を魅了して動きを奪った魔法と、中に侵入出来ないように張られた結界とを。

 自分たちの渾身の魔法が砕かれたからか、転生者たちは呆然とわたしを見た。

 わたしはその上で、わたしと取り巻きモブ令嬢、モブ侍女とローズ様、転生者四人だけを覆って結界を張った。ここからは、転生者以外に聞かせてはいけないことだ。

 二人に向き直ったわたしは、二人を少し見上げて言った。

「お二人は、勘違いしています。この世界は、お二人にとってはゲームかもしれないですが、わたしたちはこの中で『生きている』んです」

 お兄さんの言っていた「好きに生きていい」っていうのは、若くして死んだわたしたちへの憐みのギフトという意味では無い。わたしたちがどういう人間かを見定める「延長戦」なんだ。

 でも、それは試験だけではなく、本当にわたしたちにこの世界で、前世で出来なかった楽しい思い出を作ってもらいたいと思ったから、お兄さんは「楽しんで」と言った。

 決して自分の欲のために、他人を踏み台にしていいという意味ではないんだ。

 わたしは前世で、長く生きることを諦めていた。きっと彼女たちは、健康でこれからも続く人生が当たり前だった人たちだろう。だから、この世界で「生きられる」ことを大切に感じないんだ。それは自分だけでなく、他の人の命も同じで。

「本当に、この世界が神様の偽りの世界だったとしても、ここで感じた痛みや辛さ、喜びは嘘じゃなかったんじゃないですか?」

 二人の事はどうか分からない。でも、わたしもローズ様も、一緒に笑いあった日々は紛い物ではなかった。

「きっと神様は、ゲームだと思わずに、ちゃんと生きてほしかったんだと思います」

 ローズ様とわたしは、転生者たちを見る。二人は神様とのやり取りを思い出したのか、青ざめた顔で震え出した。

「そ、それじゃあ、あなたがいなくなればって、命を狙ったわたしたちはどうなるの?」

「いやよ。地獄に行くのはいや。この世で何でも償うわ!」

 この二人は、あまり神様の話を聞いていなかったので間違いないようだ。天国と地獄の概念の話はしたが、実際の責め苦を行うような地獄は無いと言っていたのに。多分、乙女ゲームの世界の真のヒロインになれるとはしゃいで、神様がどういう意図でわたしたちを転生させたのか考えなかったのだろう。

 この世界で、彼女たちがしでかしたことは重大だ。だけど、償う意思を見せた彼女たちを、それを情状酌量の余地もなく断罪することは、それこそ気の毒に思えた。

「ねえ、ローズ様。聖女と魅了術者って、レアキャラってことですよね」

「そうね」

「そんな貴重な人たち、いなくなったら国の大損失ですよね」

「呆れた。あんなことされて、この子たちを庇うの?」

「だって、わたしは悪役ヒロインなんですよ。レアキャラの力を徹底的に利用しないなんてもったいない」

「はあ。仕方ないわね。わたくしも手を貸すわ」

 ローズ様が大きなため息をついた。それで、二人はわたしがしようとしていることに気付いて、涙を流した。

「助けて、くれるの?」

「ただで助けるなんて言っていません。お二人には、この世界を魔物の脅威から守ってもらうという償いをしてもらいます。結局、わたし一人しかお二人に迷惑掛けられてないので、この世界にうんと貢献したら、きっと神様も認めてくれるはずです」

「ごめん。ごめんなさい」

「わたしも自分の事ばかりだった。ごめんなさい」

 泣きじゃくる二人を片腕ずつで抱き締めて、わたしは元気よく言った。

「さて、じゃあ、ハッピーエンドの断罪イベント。終わらせますか!」




 結局、あの後どうなったかというと、モブ令嬢とモブ侍女は、罪を認めて世界へ貢献するために、自ら名乗り出て魔物の被害を抑える活動を始めました。

 モブ侍女はデイジー様といって、国を魔物から守る結界の維持に尽力されました。

 モブ令嬢はマーガレット様といって、その魅了の力を魔物に使うことで、結界内に入ってしまった魔物を騎士団と一緒に減らしています。

 残り一学年は、わたしたち、相変わらずのメンバーで楽しく過ごしました。

 変わったことと言えば、それぞれがそれぞれのハッピーエンドに向かって行ったということでしょうか。

 殿下はご卒業後、何とユーシス様の妹君と婚約なさいました。妹君は、ユーシス様の勧めで学園に入学をしてきて、殿下が一目惚れし、なんかすぐにいい雰囲気になりました。

 オーランド様は、卒業後すぐに魔物を討伐する任に就いて、マーガレット様の奮闘を手助けしているうちに、お二人は恋仲になりました。

 リード様は、生徒会の会計を取りまとめるサラの有能さに気付き、じっくりと財政の話をするうちに、婚約が決まったそうです。

 カミル先生は、わたしの身代わり……後釜となったデイジー様と一緒に、光魔法の研究を進めているそうです。今度、先生のご実家のある地方へお二人でお出かけになるとか。

 ファビアン様は、アルフレド殿下の後に生徒会長となったアマリリス殿下をお支えして、そのまま殿下の人生までお支えすることになりました。

 ユーシス様は、ミッドランドの教育のすばらしさを広めるため、卒業後も数年この国で学ばれた後、自国へ帰られました。まだ先の話ではありますが、教育に詳しいミッドランドの令嬢とご婚約するとのことです。隠さなくてもいいのに。

 そして、ローズ様です。女性の権利や地位の向上と、国民の教育に心血を注がれて、その中で励まし合った方と隣国へ渡られるそうです。ローランドのご飯は、ミッドランドとまた違った趣らしいので、結婚式にお呼ばれするのが今から楽しみです。



 そして、ヒロインのわたしですが。


 断罪騒動からひと月くらい経った春の日。

 今日はグレンと、学園の東の池のほとりの木の下で、二人でわたしが作ったサンドイッチを食べながら、他愛もないおしゃべりをしています。

 その楽し気な声につられたのか、池からマーマンが呪詛を吐きながら、ヌルっと出てきました。

「小娘、あんた男連れなんて生意気ね」

 このマーマン(♂)はジャスミンという名前らしいです。わたしが一回絞めたのにも関わらず、あれ以来気さくにわたしを罵ってきます。どうやら、カミル先生が餌付けに成功したらしく、人は襲わなくなったので学園にいても良いことになったのですが、こうやって女子には暴言を吐き、好みの男子にはちょっかいを出すという迷惑な名物となってしまいました。

 でもたまに、女子の恋愛相談に乗ってあげているらしく、駆逐にはいたっていないのが残念です。

 そのマーマンが、グレンを見て目を輝かせました。

「やだ、ちょっとアタシのチョー好みじゃない!こんな小娘やめて、アタシと懇ろになりなさいよ」

 わたしはぬめった水かき付きの手を蹴り飛ばすと、グレンを庇うようにマーマンの前に立ちふさがった。

「ダメ!誰が好きな人を魚類にくれてやるか!」

 言ってしまってから、わたしは自分の言葉に大赤面した。断罪よりちょっと前には気付いていたけど、まさか自分でこんな風に暴露してしまうとは。恥ずかしすぎて、その場を逃げようとしましたが、あっさりとグレンに捕まってしまいました。グレンに捕まれた腕が、なんだか熱くて泣きそうです。

「ジャスミン。少し外してもらえる?」

 グレンがマーマンに紳士的にそう問いかけると、マーマンは水かきがあるのに器用にサムズアップして、「アタシは恋の伝道師」と寝言を呟いて水の中に沈んでいった。

 しばらく、無言だったが、グレンが沈黙を破った。

「ねえ。今の言葉、本当?自惚れてもいい?」

 わたしは今グレンに背を向けているが、全身熱くて、赤面していることがバレている自信がある。耳元で聞こえるグレンの声に、もう脳みそも沸騰寸前だ。

 だけど、わたしはしっかりとその言葉に頷いた。それだけは、うやむやにしてはいけないと思ったから。

「やっと、俺だけのヒロインになった」

 え?と聞き返す間もなく、身体が反転した。そして、わたしの唇にグレンのそれが重なる。

「大好きだよ、アイリス」

 柔く抱きしめられて、わたしもグレンの逞しくなった背に手を回した。

「わたしも、大好き」

 不本意にも魚類が取り持った仲ではありますが、とっても幸せです!

 悪役令嬢がブームですが、ヒロインも捨てたもんじゃありません。



 学園の三年間が終わった。

 わたしは卒業式と同時に、あの白い空間へ舞い戻っていた。今度はアイリスの姿を保ったままだった。

「お帰り。君のお陰で、新しい世界がまた一つ構築できたんだ」

 あの超絶美形のお兄さんが、わたしにそう話しかけてきた。世界の安定にエネルギーが必要とか言っていた気がするが、今回は他人を蹴落とすエンドの悪役はいなかった、と報告すると、お兄さんはとても嬉しそうに答えた。

「そういうエネルギーも凄いけど、実はもっと凄いエネルギーがあるんだよ」

 わたしが首を傾げていると、お兄さんがわたしの頭を撫でた。

「それはね、みんながハッピーエンドになることなんだ」

 そうか。あの世界では、みんなが幸せな結末を迎えたんだった。良かった。

「それでね、その君たちのいた世界が、新しく安定した世界なんだよ」

 ふむふむ、と頷くわたし。

「分からない?安定したってことは、まだあの人生を続けられると言うことだよ」

 ……それって。

「そう。学園の続きを生きてくれるかい?もう、他の子たちは賛成してくれているよ」

 また、ローズ様とおしゃべりをして、殿下たちとくだらない遊びをして、またグレンと会えるんだ!


「さあ、物語を続ける?」



 to be continued


短めの作品となりましたが、お付き合いいただきましてありがとうございました。

突然湧いた、半魚の乙女。趣味全開です。


一度完結とさせていただきますが、今度は攻略対象サイドからの甘めのストーリーも載せられたらと思っています。

このタイトルに追加か、別立てでお送りするかは未定ですが、アップした際はまた閲覧をよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一風変わった転生もの乙女ゲーム、楽しかったです。 転生者が争うばかりではなく、お試し?修業的な過ごし方にそこからのハッピーエンドでこちらも幸せな気分になりました。 [一言] いくつかの…
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