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悪役ヒロイン

ヒロインの運命は、断罪エンドなのか

 夏休みも終わって、ユーシス様とは、同じ恐怖体験を経験したからかマブダチ関係になった。イベント率も濃い体験だったからか一気に10パーセントになっていて、親密度も30パーセントと一気に上昇した。

 殿下たちとも、相変わらずのグダグダとした付き合いで、親密度も「仲のいい友達」くらいになれた。

 それは、乙女ゲーム的にはノーマルなエンドになるだろうが、ゲームではない本物の生活では普通のことだった。



 それから季節は過ぎて、今年も卒業パーティーの季節になった。

 そうそう、今年の交流大会は、昨年の事故を踏まえて、厳重な警戒態勢が敷かれていたからか、何事も起こらずに、わたしの学年が優勝して終わった。チートぞろいだからね、うちの学年。

 用意されていたイベントスチルも、既に用をなさなくなって久しく、ローズ様と相談して、もう断罪イベントは諦めたんだ。その代わり、「友情エンドもいいじゃない」となって、わたしたちは出来るだけたくさん楽しい思い出を作ろう、と方針を転換したのだ。恋愛だけが幸せのツールではないと、ここに至ってローズ様も納得してくださった。

 けど、最近、感じることがある。

 わたし、命狙われているんじゃない?

 最初は気のせいかなぁと思っていたんだけど、一人でいる時に、どういう訳か頻繁に事故が起こる気がする。

 特に魔物絡みの事故が増えている。

 ある時は、魔物討伐の実戦授業で、一人はぐれてしまった時に、あり得ないくらいの群れに襲われた。ある時は、実験用に飼われていたスライムが逃げ出し、何故かわたしの部屋にわんさか屯していて、危うく溶かされかけた。ある時は、いつのまにか池に棲息した半魚人(マーマン)に引きずり込まれそうになった。

 魔物の群れは、周辺を調べたら召喚の魔法陣が設置してあった。スライムは、溶けて分かりづらかったが、魔物の好むフェロモンみたいなものが絨毯に染み込ませてあった。半魚人(マーマン)(♂)は、知性があって話が出来たので締め上げたら、「ピンクの髪の女を殺ると、魔物の位階が上がるって噂なのよ!」とオネエ口調で吐いた。

 そう言えば、去年の交流大会でのゴーレムの暴走も、魔物の群れの時と似たような魔法陣が使われていたらしい。まだ誰が犯人かは分からないが、意図的に暴走を起こしたことは間違いない。

 また、マンドラゴラ事件だが、カミル先生に詰め寄ったら、わたしが引っこ抜いたのは先生が用意したマンドラゴラと違って強毒性のものと判明した。

 あと、ユーシス様が言っていた国境の結界は、ユーシス様が調査することで抑えていたけど、実際はわたしが指名手配されていてもおかしくなった状況だったようだ。ピンクブロンド自体が珍しい髪色で、ミッドランドの一部の一族にしか現れない色のうえ、目撃者情報と同じ年頃の娘はそうはいないらしい。そりゃピンポイントで指名手配したくなるわ。

 やっぱり、結構前から狙われてますよね、命。

 そんな訳で、ローズ様との午後のお茶のひと時に、わたしはポロッと言ってみた。

「最近、命を狙われているみたいなので、犯人捕まえた方がいいですかねぇ」

「……え?気付いたの?」

「え?」

 衝撃的事実。ローズ様は、マンドラゴラ事件あたりから分かっていたそうだ。本来、わたしの状態異常耐性はヒロイン補正で、マンドラゴラくらいなら装備無しで引っこ抜けるのに、ぶっ倒れたからおかしいとなったようだ。なんで、そんなにわたしが状態異常耐性があるか知っているかと言うと、あの電極ビリビリとかのカミル先生にされた人体実験のおかげ(?)らしい。それと、カミル先生がわたしの握ったマンドラゴラを持ち去って調べたので、本来野生では生えない品種改良したマンドラゴラであることが判明したとのこと。

 先のゴーレムの暴走事件もあって、教師陣は王族を狙ったものかと警戒し、目を光らせていたらしいが、結局被害はわたし一人に留まっていたのでわたしを観察していたらしい。

 結界弱体化もすぐに情報が入って来たらしく、わたしが疑われる前にと、カミル先生が無理やりわたしに結界修復の実績を積ませたらしい。わたしのためを思っての行動であったことを初めて知って、わたしはどう反応していいか分からなかった。

 感謝はするよ。凄い嬉しいんだけど、もっと事前に教えてくれればいいじゃない、と思う。だって、いろんな事が問答無用で進行してモルモットにされたわたしの気持ちはどこへ持っていけばいいのだろう。

 まあ、結果無事だったからいいけど。

 で、そんな異変などわたし以外はとっくに気付いていたらしく、それぞれに調査をしていたとのこと。

 魔法陣や結界については、とても一人でなせる業ではないとのことで、複数犯の可能性が高く、それについては学園内で顔が広い生徒会メンバーが洗い出しをしてくれているとのことで、暴走や召喚の魔法陣については、カミル先生を中心に調べてくれている。

 そして、わたし自身は、余程の事が無い限り、誰かが一緒にいて護衛しようということになっていたそうだ。それでもどうしてもわたしが一人になる場面は無くすことが出来ず、数回は危険な目に遭わせてしまったと、ローズ様はおっしゃった。

「……わたし、そんなこととは知らず、能天気に……」

「あなたに知らせる必要が無いと、わたくしが判断したの。だからあなたを騙すつもりもなかったわ」

「でも、わたし自身のことなのに……」

「わざわざ、あなたを悲しませることもないでしょ」

 乙女ゲームって、今から百合ルートを歩むことは可能でしょうか!抱き付くわたしを迷惑げに引き剥がしながら、ローズ様が提案する。

「どうしてもあなたが、自分で解決したいのなら、舞台は用意しますわ」

 上品に唇に指を添えて、ローズ様は艶やかに微笑んだ。

「断罪イベント、起してみましょうか」

 その笑顔は、文句のつけようもなく、完璧な悪役令嬢であった。



 卒業パーティーの日になりました。

「緊張してる?」

 少し表情を硬くしたわたしに、グレンが尋ねてきた。

「ちょっと」

 少しだけ笑ったわたしに、グレンはそっとわたしの手を取って温めてくれた。緊張で冷たかった指先にグレンの温もりが宿って、わたしの緊張が嘘のように溶けるのを感じた。

「大丈夫。うまくいくよ」

「うん」

 まだ始まってもいないのに、もう本当に全てが大丈夫だと思えた。わたしは逆にグレンの手を握り返して、急かすように会場までのわずかな距離を、手を繋いだまま走った。


 会場に着くと、既に殿下とローズ様は到着されていて、来年度入学後予定の殿下の妹君のアマリリス王女殿下も見学と称していらっしゃった。あ、リード様もいる。

 王女殿下は初めてお会いするが、アルフレド殿下に似ていて、おっとりとした天使系美少女だった。いやー、目の保養になるねぇ。お付きの侍女さんが、不躾に眺めるわたしに鋭い視線を送って来る。すみません。

 そうこうしているうちに式が始まり、殿下と卒業生代表のオーランド様がスピーチをした。意外なことに、脳筋だと思われたオーランド様だったが、ちゃんとスピーチも出来るようだ。見直した。

 その後は、シャンパン風飲み物で乾杯をしてから、卒業生たちのダンスが始まる。

 このダンスは、社交界のダンスと同じく、身分の高い人のダンスがあり、これは殿下が王女様と務められ、その後に卒業生のダンスとなる。このダンスは、婚約者がいれば婚約者と踊るようで、学園外にいる人は連れてきていいそうだ。

 アルフレド殿下のセカンドダンスとオーランド様に行列が出来ている。ボヘーッと「すごい人気だなぁ」と眺めていると、アルフレド殿下とオーランド様が人波をかき分けてこちらへ向かって来るのが見えた。ざわつく周囲を余所に、悪戯な笑みを浮かべて、お二人がわたしにその手を差し出した。

「「レディ。ダンスを踊っていただけませんか?」」

 はい、乙女ゲームの醍醐味!攻略対象からの「お前と踊りたい」攻撃だ。どこかで女子生徒たちの悲鳴が聞こえた。本当なら胸がときめくところだが、わたしは知っている。これは、わたしの暗殺未遂犯を炙り出すための演出だということを。

「アルフレド。今日は俺の卒業パーティーだ。譲れ」

「仕方ないな。次のダンスを申し込むよ。抜け駆けするなよ」

「それでは殿下は、わたくしと踊りましょう」

 オーランド様がわたしを連れ出すと、その後に続いて殿下とローズ様がホールに出た。ざわついた会場も次のダンスに向けて、それぞれのパートナーを見つけてダンスが始まる。

「オーランド様、こんな演技に付き合わせてしまってすみません」

「……お前、本当に分かってないな。いや、いい。他の連中も順番に誘うから、思い出作りに踊ってやってくれ」

 大切な卒業パーティーを犯人捕獲に使ってしまって申し訳ないが、みんなそれぞれが協力を申し出てくれたので、確かに思い出作りとして、せめてダンスは楽しんでもらおうと思った。

 力強いリードのオーランド様とのダンスが終わると、今度こそアルフレド殿下だ。殿下ともいろいろ話に花を咲かせていたら、続けて踊れたらいいのにとおっしゃっていた。殿下は優雅で優しいリードで、わたしも疲れずに何度でも踊れそうだった。

 次はユーシス様だ。相変わらずわたしとグレンの隣国行きを諦めていない様子で、ダンス中はローランドのいい所をたくさん教えてくれた。ユーシス様は奔放なリードだったけど、たまにアクロバティックな動きも入ってとても楽しかった。

 次は、卒業されたリード様だった。頻繁に会えない方なので体調は大丈夫か尋ねると、王宮にわたしがいればいいのにとおっしゃった。丁寧なリードのリード様(韻踏んだ)に、ご用命あらばいつでも治癒魔法を掛けに伺いますと告げる。

 次はカミル先生だ。カミル先生は踊りながら「いつもいじめてごめんね」とおっしゃったが、それが今では()()はわたしのための調査だと分かっている。終了間際に、「もっともっと君の事を知りたいんだ」と囁かれたが、「死なない程度に」と答えておいた。。

 次はファビアン様と踊った。ファビアン様は、ローズ様の遊びに付き合ってくれてありがとうとお礼を言ってくださったが、それはわたしの楽しみでもあったと伝えた。すると珍しくふわりと微笑んだ後、いつものツンで「いつでも僕を頼っていいよ」とおっしゃった。

 さすがに六回連続で踊ると疲れたが、次に差し出された手の相手を見て疲れも忘れる。

「俺とも踊っていただけますか?」

「はい!」

 グレンが差し出す掌に、わたしが手を乗せようとした時だった。

 誰かがわたしに歩み寄ってくる気配がして、咄嗟にグレンがわたしを庇おうとするが、急に身体が動かなくなったように止まった。背後に二人の気配を感じる。

「こんなのおかしいわ。これは、わたしの物語のはずでしょう」

「何を言うの、わたしの物語よ!」

 声の主にわたしは羽交い締めにされるが、首を捻って声の主を確認する。

 一人は知っている。亜麻色の髪にアンバーの瞳の、原石系美少女の取り巻きモブ令嬢だ。そしてもう一人は、さっき会ったばかりの王女様付き侍女の人だった。もしかして、この人は神様が言っていたモブ侍女希望の人?

「わたしは、強い魅了の力をもらったのに、あなたが治癒を掛け回るせいで、殿下たちに耐性が付いてしまったのよ。あなたには一度忠告したはずなのに、何故勝手なことばかりするのよ」

 取り巻きモブ令嬢の、アンバーだと思っていた瞳が金に光ると、周りの人間も金縛りのように動けなくなった。それは令嬢が、ご法度である人を操る力を持ち、それを殿下たち攻略対象にも何度も掛けていたことを示していた。

「本当に目障りよね。わたしも聖女級の光魔法をもらったのに、あなたのせいで攻略対象が学園に留まって、こちらのルートが進行しないのよ。だから結界に細工して、あなたのせいにして責任を取ってもらおうとしたのに」

 ユーシス様が言っていた、もう一人の聖女級の力を持つ人ってこの人だったんだ。モブ侍女は、その聖女の力で結界を弱めて、わたしの髪色のカツラでわたしの仕業に仕向けようとしたようだ。結界が解かれた後のことなど考えずに。

「悪役令嬢も役に立たなかったわ。わたしたちを引き立てないで、何故こんなヒロインなんかを助けるのよ。さっさと断罪されればいいのよ!」

 その悪意はローズ様にも向いた。違う。ローズ様は、誰かの引き立て役のために断罪されていい人なんかじゃない。自分も含めたみんなが幸せになれるルートを探していたんだ。目の前の人たちだって、その中に入っていたんだから。

「神様!これは間違った物語です!楽しみなさいと言ったのはあなたでしょう⁉」

「そうよ!リセットしてください。もう一度転生をやり直します!」

 彼女たちは、どこまでもこの世界をゲームとしか思っていなかった。

 確かにお兄さんは疑似転生と言ったけど、この世界にいる人たちは、一人一人に感情があって、自分で考えて人に優しく出来る生きている人たちなんだ。

 自分以外をリセットの効くキャラだと思っている人たちに、文句を言われる筋合いは、ないわ‼


「いい加減に、しなさぁーーい!」


 この世界に来て、初めて手加減なしの魔法を炸裂させた。

逆ハー出来てたんですね。

でも、気付いていないのヒロインだけ。

次話が最終話となります。


閲覧ありがとうございました。

最後までお付き合いください。

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